子どもが汗疹(あせも)になったときはどうすればいい?治し方や湿疹との違い・対策法について

日常生活において、子どもが汗疹(あせも)になった場合はどうすればいいか判断に迷う時はありませんか。
汗疹とは、大量の発汗に伴って皮膚に発症する皮疹(発疹)のことであり、一般的には「あせも」と呼ばれることが多いです。
多くの場合には、患部を清潔にして通気性を良好に保てば自然に治癒することがほとんどですが、時に患部に強い掻痒感や痒み症状を伴うケースもあります。
あせもは乳幼児によく見られる症状ですが、近年では夏の猛暑などにより大人や高齢者に発症することも珍しくありません。
今回は、そんな子どもが気をつけたい「汗疹(あせも)」にについて解説していきます。
薬などを用いる治し方や湿疹との違い、大人が知っておくべき具体的な対策法なども説明しますので要チェックです。
汗疹(あせも)とは?

汗疹(俗称:あせも)とは、大量の発汗に伴って、汗が正常に皮膚表面から排出できなくなることで引き起こされる発疹です。
通常、汗疹は夏の季節など高温多湿下の環境で汗を大量に排出するための汗管(導管)が大量の汗成分やホコリなどによって詰まり、皮膚の中に汗が溜まることで発症します。
掻痒感(かゆみ)を伴う赤くて小さなぷつぷつとした発疹が、大量に汗をかいた部位によく見られます。
汗疹に関しては、皮膚病変の外見上の所見や症状、発症経過や環境因子などを総合的に判断して正確な診断に繋げることができます。
通常汗疹は、水疱(水ぶくれ)や丘疹(皮膚表面が小さく盛り上がった状態)もあわせて認められるので湿疹(しっしん)との鑑別が必要となるケースも存在します。
汗疹は、汗管が閉塞する部位に応じて特定の皮疹所見を認める特徴があり、湿疹のような全身の様々な部位に多様性の形状を呈する皮疹が混在しないのが両者を鑑別するうえでの重要なポイントです。
汗疹(あせも)の原因

汗疹は、汗の通り道である汗管が閉塞して汗が皮下に貯留することで発症すると考えられています。
あせもの原因
夏期シーズンなど高温多湿の環境下で、
●通気性の悪い衣服を着用しながら激しい運動をして大量に発汗する
●骨折してギプスを着用している
●風邪などで高熱の際に一気に大量の汗が生成されて分泌する
※ギプスでなくても、外用湿布や包帯で保護されている部位などは通気性が悪く、汗をかきやすい状態が維持されることで汗疹を認めます。
我々の身体の中で汗成分を分泌する汗腺には、エクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類が存在します。
①エクリン汗腺
エクリン汗腺は全身に分布して汗を分泌して体温調節を担っている機能を有します。
②アポクリン汗腺
アポクリン汗腺は腋下(わきの下)や乳頭部、臍周囲、外陰部などに分布しており、従来からフェロモンを分泌する役割を持っていたと伝えられています。
汗疹の場合には、特にエクリン汗腺から伸びる汗管が閉塞することで引き起こされると指摘されています。
汗疹の症状とできやすい場所

乳児(赤ちゃん)や寝たきりの高齢者などの場合は、普段から汗をかきやすい部位として、顔やおでこ、首まわり、脇の下、肘や膝など関節面の裏側、足の付け根や股間部、あるいは湿布や包帯、ギプスを装着している部位は汗疹が発症しやすいと言われています。
それ以外にも、ベルトや下着で常に締め付けられている皮膚部位など汗をかきやすいと同時にムレやすい場所に汗疹が発症しやすいです。
汗疹は、赤みを伴う小さなポツポツとした丘疹(皮膚表面が小さく盛り上がった状態)が急速に現れることが特徴的です。
汗疹は閉塞する汗管の部位によって、皮膚の表面に近いほうから順に水晶様汗疹・水晶様汗疹・深在性汗疹の大きく3種類に分類されています。

引用元:medicalterrace
紅色汗疹
一般によく認められる発赤やかゆみを伴う皮膚深層の汗管が詰まるタイプの汗疹は、「紅色汗疹」と呼ばれています。
その患部には直径2mm大程度の丘疹(皮膚表面が小さく盛り上がった状態)が認められ、強い掻痒感を伴って、ちくちくした違和感や熱感を自覚することもあります。
紅色汗疹の場合には、皮下の炎症反応に伴って発赤とかゆみ症状を合併するのが特徴のひとつです。
このタイプの汗疹が慢性化して長引くと湿疹に移行する、あるいは掻痒感のために皮膚をかきむしって細菌感染を起こして膿疱(皮膚のなか、あるいは皮膚の下に白や黄色みがかった膿が溜まって盛り上がった状態)形成を認める場合もあります。
水晶様汗疹
また、「水晶様汗疹」と呼ばれる汗疹のタイプも存在します。
角層や角質直下の皮膚表層部に汗が貯留することで引き起こされるものであり、直径数mm程度の透明の小水疱が形成されるも通常ではかゆみや発赤所見を伴わないと考えられています。
水晶様汗疹は、乳児の顔面部によく認められるとともに、成人でも風邪など発熱した際などに合併して発症することがあります。
基本的には数日の経過で自然に治癒することが多いです。
深在性汗疹
3つ目のタイプとして、紅色汗疹を繰り返すことで皮膚と真皮の境界部付近の汗管が破壊されるために発症する「深在性汗疹」が挙げられます。
このタイプの汗疹では、真皮内に汗が貯留するため、炎症に伴う発赤は皮膚外部から認められません。
白い扁平状の丘疹(皮膚表面が小さく盛り上がった状態)が散在することが知られています、
顕著なかゆみ症状は合併しないものの、体温調節機能が低下するに伴って夏場に熱中症を発症する危険性が上昇します。
関連記事:ダニ刺されで悩んでいる方へ!あせもとの違いについて解説!症状や治療についても
汗疹(あせも)が治らない時の対処方法

ここでは汗疹がなかなか治らない時の対処法について紹介します。
汗疹の自然治癒を待つ
汗疹に対する治療方法は、その症状や皮疹の広がりなどによっても若干異なってきます。
しかし、基本的には汗をかきやすい環境因子を出来る限り避けて、こまめに汗をかいてもすぐに拭き取るなど皮膚領域の清潔レベルを一定に保つことで自然と治癒するケースがほとんどです。
汗疹が形成された部位は、
- シャワーをこまめに浴びるなど肌を清潔にする
- なるべく通気性や吸湿性が良好で肌触りのよい木綿などの衣服を着用して室温を上手に調整して涼しい環境で過ごす
ことなどで自然に汗疹は消失していきます。
髪の毛がかかりやすい前額部や首周囲などの場所も汗疹の形成されやすい好発部位ですので、汗をかく時期には髪を結って髪留めで髪の毛をまとめるなどの工夫も有用ですし、素肌に身につけるアクセサリー類も汗疹の発症を助長する懸念があるので一定の注意を払いましょう。
皮膚の一番外側に該当する角層部位で汗管が閉塞すると、軽症の汗疹症状として数mm大の透明な水疱(水ぶくれ)成分がプツプツと現れる水晶様汗疹が出現します。
このタイプの汗疹でも肌を清潔に保持することによって数日単位で皮疹が乾いて自然消失していくと考えられています。
より早期的に治癒させたい場合には、炎症や掻痒症状を緩和させる市販の外用薬を上手く活用してもよいでしょう。
汗を大量にかく環境状態などが改善されずに、汗疹がいっこうに治らずに湿疹に変化していく場合には要注意です。
汗疹にワセリンやオロナイン等の市販薬の使用は避ける

基本的には汗疹にワセリンやオロナイン等の市販薬は悪化させることもあるため使用は避けましょう。
汗疹の治療には、普段の保湿などスキンケアを中心とした対症療法が基本的な治療策となります。
紅色汗疹の場合には、汗疹に伴ってかゆみや発赤などが顕著に目立つ際には炎症を抑制するクリームなどを活用することも検討してもよいでしょう。
一般的に、赤ちゃんの保湿剤といえば、従来からワセリンが広く普及して知られていますが、汗疹の形成されやすい赤ちゃんや子どもの場合には、ワセリンは汗腺の出口や毛穴を詰まらせて汗疹が悪化することがあります。
そのため、ベタベタするワセリンによる保湿で悪化傾向を認める場合には、代理策として「ヒルドイドローション」や「ビーソフテンローション」などさらっとした保湿剤を使用することを考慮しましょう。
また、オロナイン軟膏は湿疹や虫さされに使用するとかえって汗疹症状が悪化することが認められますので、十分に気をつけて用いてください。
あせもの薬を患部に塗って、かえって悪化する場合や症状がひどくなかなか治らずに困っている場合には、早めに皮膚科など医療機関を受診されることをお勧めします。
赤ちゃんの汗疹の対応方法

赤ちゃんの汗疹(あせも)は、季節を問わずに気をつけたい皮膚トラブルのひとつですね。
赤ちゃんも子どもや大人と同様に、汗を大量にかいたときに汗疹が出現しやすく、患部が赤くなってかゆみ症状を伴うとついつい無意識に掻きむしることが往々にしてあります。
特に、赤ちゃんが汗疹を認める患部を掻きむしるとさらにかゆみ症状が悪化して、皮膚に細菌が侵入して皮膚感染を合併する危険性が高くなります。
汗疹は、汗管が詰まることが原因で発生するので、赤ちゃんの肌に汗疹を認めた際には、
- シャワーや入浴など基本的なホームケアで汗成分を洗い流す
- 洗った後にしっかりとベビーローションなど保湿剤を塗布する
などデリケートな赤ちゃんの肌を清潔に維持しましょう。
また、赤ちゃんの皮膚は大人のおよそ半分の薄さであり、その保護機能も未発達であることが知られています。
皮膚のかゆみ症状を我慢できずにどうしても皮膚を搔きむしってしまう動作が繰り返して認められる場合には、患部を濡れタオルやタオルに包んだ保冷剤などで冷却してアイシングすることで、かゆみ症状を緩和させることができます。
汗疹の予防対策

汗疹を予防するためには、日常的にこまめに汗を拭きとることは重要です。
汗疹の予防ポイント
●室内では温度調節をして高温多湿の環境を回避する
●大量の汗をかいたら清潔な衣服に着替える
あせもを効率よく予防するためには、汗をかいたときに放置しないことがもっとも肝要なポイントです。
こまめに汗を拭いて着替えるのみならず、ぬるめのお湯で皮膚を綺麗に洗い流すとなお一層効果的と言えるでしょう。
汗疹が悪化しないためには、皮膚が蒸れないように気をつけましょう。
また、大量に発汗した後は皮膚をおしぼりで拭き取ることも忘れずに実行する、あるいは寝る際の布団は通気性の優れたタイプを選択しましょう。
高温多湿の環境下では、エアコンをうまく活用すると共に、通気性や吸収性に優れた下着や衣類を身につけることを心がけましょう。
万が一、汗疹ができてしまったら、入浴やシャワーで肌を清潔にしたのち、保湿剤など薬を塗って早めに治療することが大切な観点となります2)。
また、皮膚を無理に掻きむしることで細菌感染を合併すると難治化する危険性があります。
原則として
①肌を掻かない ②掻いてしまっても傷ができにくいように普段から爪を短く切っておく
などを認識しておきましょう。
関連記事:とびひはうつる?原因・症状・おすすめの市販薬を紹介
病院でできる治療

汗疹の種類によって推奨される治療法が異なります。
水晶様汗疹は一過性の症状なので、毎日のセルフケアを実践することで数日単位の間に発疹が消失して改善することが多いです。
肌を掻きむしるなどの行為によっては、「とびひ」を含めた細菌感染が引き起こされることがあります。
あるいは、湿疹に移行して皮膚所見が悪化することも考えられます。
細菌感染によって広範囲に膿疱(のうほう)を呈している際には、病院や診療所など医療機関を受診しましょう。
病院や診療所では、排膿した膿汁の培養検査を実践して原因菌を特定すると同時に、細菌の感受性に応じた抗菌薬を投与することがあります。
紅色汗疹において、湿疹や膿疱が合併して炎症が強い場合には、非ステロイド系抗炎症薬や副腎皮質ステロイドの塗り薬などを処方することもあります。
全身のかゆみ症状が強度な場合には抗ヒスタミン薬の内服を検討します。
まとめ
汗疹と呼ばれているいわゆる「あせも」は、気温の高い夏場や風邪などを引いて発熱症状を呈している際に、大量に汗をかいた状態をしばらく放置した場合に発症しやすくなります。
身体には、汗を分泌するための器官が全身に分布していて、体温が上昇した際には汗を生成して体温を下降するように機能していますが、この汗の通り道となっている汗管が閉塞することで汗疹が引き起こされると考えられています。
汗疹の種類は以下の3つが代表的なものです。
- 径2-4㎜の赤い盛り上がった湿疹が特徴的で赤ちゃんや子どもによく認められる紅色汗疹
- 径1mmの小さな透明の水疱ができて特別な治療をしなくても数日単位で治る水晶様汗疹
- 数mmの固い丘疹が形成される深在性汗疹
汗疹を認めた場合には、悪化予防のために皮膚を清潔に保ちましょう。
掻痒感を自覚してもできるだけ爪で掻きむしらずに、医薬品のかゆみ止めや保湿剤などを上手く活用することで皮膚症状を緩和させるのも1つの手です。
皮膚を日常的に清潔に維持することは、汗疹から細菌感染などの合併症を予防する効果もありますので、しっかりと確実にホームケアを実践してあげてください。
また、赤いぶつぶつが広範囲にたくさん認められる場合・患部のかゆみ症状が強い場合・子どもが肌を掻きむしって皮膚が赤く腫れて膿成分が排出している場合は、可及的速やかに小児科や皮膚科など専門医療機関を受診して相談するように心がけましょう。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
>>手足口病は子どもの間で流行している?|初期症状やうつる確率などについて解説<<
参考文献
ヘルパンギーナの症状や溶連菌との見分け方・熱がない場合について

夏になると毎年のように子供たちの中で流行する『夏の三大感染症(手足口病・ヘルパンギーナ・咽頭結膜熱(プール熱)』解説シリーズです。
今回は、「ヘルパンギーナ」について、わかりやすい形で解説していこうと思います。
ヘルパンギーナとは?

ヘルパンギーナは、手足口病と同様に感染症法で「5類感染症」に定められており、定点把握疾患(決まった病院が発生数を毎週報告する)となっている感染症です。
新型コロナウイルス感染症の流行以降は飛沫感染・接触感染などを感染経路とする様々な感染症の減少が報告されてきました。
しかし、毎年夏季に流行していたヘルパンギーナの報告数は、増加傾向にあるため注意が必要です(下図参照)。

ヘルパンギーナの発生動向
(厚生労働省/国立感染症研究所 感染症発生動向調査感染症週報IDWR2022年第28週 7月11日~7月17日:通巻第24巻第28号より引用)
まずは、ヘルパンギーナの概要について説明していきます。
ヘルパンギーナの原因は?
ヘルパンギーナは、コロナウイルスやインフルエンザと同じ、ウイルス感染によって引き起こされる感染症です。
以下のような複数のウイルスが原因となります。
原因ウイルス
コクサッキーウイルスA群・コクサッキーウイルスB群・エコーウイルスやエンテロウイルス(68-71)
コクサッキーウイルスやエンテロウイルスというと、前回のテーマである「手足口病」の原因ウイルスと同じことに気が付く方もいるかもしれません。
これらのウイルスは、手足口病だけでなく、ヘルパンギーナの原因にもなります。
関連記事:手足口病の症状や潜伏期間、子供だけでなく大人の初期症状やうつる確率について解説
ヘルパンギーナの流行時期や感染経路は?
ヘルパンギーナは5月頃から発生しはじめ、ピークは7月頃にあります。
そして、8月頃から減少しはじめ、10月頃にはほとんど見られなくなります。
感染の拡大規模は毎年ほぼ同様といわれています。
患者は手足口病と同様で乳幼児に多く、発症者の90%近くは5歳以下であり、1歳の感染者が最も多くみられます。
感染経路としては、以下の通りです。
●飛沫感染
●接触感染
●糞口感染(ウイルスを含む糞便が手指に付着し、口などに入るルート)
特に幼稚園や保育園では、感染予防策が弱いことに加えて、原因ウイルスへの感染経験がない子供の割合が多いため、感染拡大が起こりやすいと考えられます。
ヘルパンギーナの症状

ヘルパンギーナの症状について詳しく説明します。
ヘルパンギーナの潜伏期間
ヘルパンギーナは感染したのち2-4日間の潜伏期間があります。
潜伏期間の間に周囲に感染を広げる可能性は低いと考えられています。
ヘルパンギーナのよくみられる症状
ヘルパンギーナでは潜伏期間のあとに次のような症状が急性にみられることが特徴的です。
ヘルパンギーナの症状
・発熱
・咽頭痛
・食欲不振
・のど(軟口蓋・口蓋弓)の小水疱
続いてそれぞれの症状について少し詳しく説明していきます。
発熱
ヘルパンギーナの発熱は手足口病とは異なり、38℃~40℃といった高熱が突然発症することがあります。
発熱は2-4日間で下がることがほとんどです。
突然の高熱であるため、発熱時に熱性けいれんを伴う場合があります。
口・のどに出る症状
発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の著明な発赤が起こります。
さらに、口蓋垂(のどちんこ)の周りである軟口蓋から口蓋弓にかけて直径2mm程度の紅暈(こううん、皮膚の部分的な充血による発赤)で囲まれた小水疱が出現します。(下図参照)。

小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成するため、口内炎のような痛みを伴います。
口の中が痛くなるため、子供の場合は機嫌が悪くなります。
また、食事や水分、母乳やミルクなどの摂取が少なくなることで脱水症となる場合があります。
特に子供では水分摂取量に気を付けてください。脱水症の目安としては飲水量も大切ですが、尿量(おしっこに行く回数やおむつ替えの回数)のあきらかな減少を気にするとよいと思います。
その他の症状
ヘルパンギーナは軽い症状でおさまってしまうことが多いですが、ごくまれに次のような重症な状態となることがあります。
- 無菌性髄膜炎:頭痛、嘔吐、首の後ろの痛みなどがおきます。
- 急性心筋炎:急に心臓の動きが悪くなり、血圧がさがったり、脈拍がさがったりします。B群コクサッキーウイルス感染で発生することがあります。
しかし、これらのような重篤な症状はほとんどみられることはありません。
熱がないのにヘルパンギーナになる?
周囲には手足口病やヘルパンギーナが流行っており熱はないが、口内炎の症状がみられる子供がいるかと思います。
ヘルパンギーナかなと思う方もいると思いますが、これはヘルパンギーナではありません。
厚生労働省の示すヘルパンギーナの症状は
- 突然の高熱での発症
- 口蓋垂付近の水疱疹や潰瘍や発赤
であり、発熱がヘルパンギーナと診断するにあたって重要な要素となります。
熱がない場合でも経過とともに口内炎は消失することが多いと思います。
しかし、数週間にわたって口内炎が治らないようでしたら他の病気の可能性がありますので、病院で精査をしてもらう方が良いと考えます。
ヘルパンギーナと溶連菌との違いや見分け方

ヘルパンギーナと溶連菌感染症はいずれも高熱とのどの痛みを示す病気になります。
2つの病気の大きな違いとしては以下の通りです。
ヘルパンギーナと溶連菌の違い
・感染する病原体
・治療法
・皮疹(発疹)の部位
まず、ヘルパンギーナはウイルス感染によって引き起こされますが、溶連菌感染症は細菌感染による感染症になります。
そのため治療法が大きく異なります。
ヘルパンギーナに対しては抗ウイルス薬が存在せず、基本的に症状に対して薬を使用していく対症療法が治療方針となります。
一方で、溶連菌感染症は対症療法で治癒することもありますが、抗生剤治療が有効となります。
また、ヘルパンギーナの発疹は水ぶくれを基本とする水疱性発疹ですが、溶連菌感染症では赤色の発疹が体や手足、舌に出ることが特徴的となります。
関連記事:溶連菌感染症の症状について|大人にもうつるのか?潜伏期間は?何日休めばいい?
ヘルパンギーナと手足口病との違いや見分け方

ヘルパンギーナと手足口病は同じウイルスが原因となる病気です。
大きな違いとして2点あります。
ヘルパンギーナと手足口病の違い
・発熱
・水疱の部位
まず、発熱についてですが、ヘルパンギーナは40℃近い発熱を伴うのに対し、手足口病は発熱しないことも多く、発熱したとしても38℃以下であることが多いです。
水疱の場所にも違いがあります。
ヘルパンギーナは口の中でも特に口蓋垂(のどちんこ)の周囲である軟口蓋から口蓋弓だけに水疱ができます。
一方で手足口病も口の中に水疱ができますが場所としては歯茎や舌などに発生します。
また、手足にも同じような水疱がみられ全身に水疱性発疹がみられることが特徴的です。
しかし、どちらの感染症も有効な治療薬は存在しないため、対症療法で経過を見ていくこととなります。
ドクターが「どっちかなぁ・・?」と悩んでいる光景に出会い不安になることもあるかもしれません。
私も悩むような患者さんに出会うことがあります。ただ、どちらの病気でも治療法は同じですので、ご心配は不要と思います。
悩む患者さんの簡単な見分け方としては、「周囲ではやっていて、皮膚に水疱が出たら手足口病」と思っていただいてよいと思います(過信は禁物です!!)。
関連記事:手足口病の症状は?潜伏期間やうつる確率についても解説
ヘルパンギーナになった時の幼稚園・保育園への対応

ヘルパンギーナは新型コロナウイルス感染症やインフルエンザのように、出席停止や隔離といった決まりはありません。
本人が元気であれば登園、登校は可能となります。
しかし、周囲への感染を予防するためトイレ後などにはしっかりと手洗いを行いましょう。
家庭や市販の薬でのヘルパンギーナ対処方法

ヘルパンギーナを引き起こすウイルスに対する効果的な薬はありません。
基本的に症状に対しての薬を使用して経過観察となります。
のどに痛みを伴うため、食事の摂取は難しいこともありますが、水分補給はしっかりと行ってください。
オレンジジュースや炭酸水といった刺激の強い飲み物の摂取は控えることをおすすめします。
お勧めする食べ物としては
- アイスクリーム(最もオススメ!!)
- プリン
- ゼリー
- ヨーグルト、牛乳
などとなります。
また、薬については一般的に薬局などで販売されている風邪薬や解熱剤が使用可能となります。
しかし、子供の体重に合わせた投与量の薬は少ないです。
大人用の薬剤の量を減らして使用することは危険が伴います。
また、他の疾患であった場合、自己判断での経過観察は危険を伴う場合があります。
不安な場合は病院の受診をよろしくお願いします。
関連記事:ヘルパンギーナとは?症状や潜伏期間について徹底解説
ヘルパンギーナの感染予防

ヘルパンギーナに有効なワクチンはなく、予防できる薬や治療できる薬もありません。
ヘルパンギーナは、くしゃみなどの際に出る飛沫によって感染する「飛沫感染」と、舐めて唾液や鼻水がついた手が触れることで感染する「接触感染」が主な感染経路です。
感染予防
・患者との接触後は必ず手洗いうがい・手指消毒をする
・子供の排泄後はしっかり手洗い・手指消毒をする
・赤ちゃんのおむつ交換の後は、しっかりと手洗い・手指消毒をする
・近所で流行っている場合には、おもちゃの貸し借りにも注意しする
・次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)や場合により消毒用エタノールで使用後のおもちゃは消毒する
感染を拡大させないためにも感染経路をきちんと把握して、予防をしましょう。
ヘルパンギーナで病院を受診する目安

自宅で経過をみていて、病院を受診するタイミングがわからず迷うこともあると思います。
病院を受診する目安
【熱性けいれんを起こしたとき】
救急車を呼びましょう。けいれんの様子を動画で撮影していただけると病院で役立ちます。
【水分がとれないとき】
食事はとれなくても大丈夫です。水分も取れない場合は点滴等が必要です。
関連記事:大人が溶連菌感染症になる原因は?合併症や治療方法を解説
まとめ
今回は夏の三大感染症、ヘルパンギーナについてご説明いたしました。
ひどい咽頭痛が起き、コロナウイルス感染症の除外も必要かと思いますので、子供の発熱と咽頭痛が起きた際はご相談ください。
比較的軽症な患者さんが多いかと思いますが、時に熱性けいれんなど、救急受診が必要となることがあることは覚えておいてください。
手洗いという簡単な対策で感染を予防することができますので、子供が感染した際はぜひとも感染対策をしていただくようお願いいたします。
参考資料
手足口病は子どもの間で流行している?|初期症状やうつる確率などについて解説

こんにちは。
熱を出している子供たちの一部で増えてきているのが『夏の三大感染症』と呼ばれる、「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」です。
毎年のように夏になると増えるこの三大感染症について解説していきます。
今回は「手足口病」について、わかりやすい形で解説していこうと思います。
手足口病とは?

手足口病は、感染症法で「5類感染症」に定められており、定点把握疾患(決まった病院が発生数を毎週報告する)となっている感染症です。
まずは、手足口病の概要について説明していきます。
手足口病の原因は?
手足口病は、新型コロナウイルスやインフルエンザと同じ、ウイルス感染によって引き起こされる感染症です。
主に「コクサッキーウイルスA16・A6」や「エンテロウイルス71」など複数のウイルスが原因となる病気です。
手足口病の流行時期は?
手足口病は、4~5歳ぐらいまでの乳幼児を中心に夏場に流行する疾患となります。
発症者の90%近くは5歳以下、半数は2歳以下にみられます。
また、成長過程で症状が発生しない感染(不顕性感染)を起こしていることも多いので、成人で起こることは少なくなります。

こちらは古いですが、手足口病の定点あたりの報告数となります。
5月頃から9月頃(20~40週)の夏場に多く発生することがわかります。
手足口病の感染経路は?
手足口病の感染経路としては、
- 飛沫感染
- 接触感染
- 糞口感染(ウイルスを含む糞便が手指に付着し、口などに入るルート)
がわかっています。
幼稚園や保育園などでは、特に感染予防策が弱いことに加え、原因ウイルスへの感染経験がない子供の割合が多いです。
そのため、幼稚園や保育園では感染拡大が起こりやすいと考えられます。
手足口病で幼稚園・保育園・学校は休むべき?
手足口病は、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザのように、出席停止の決まりはありません。
厚生労働省の発表している目安としては「解熱して1日以上経過して、普段通りの食事が切る状態」というものはあります。
周囲への感染予防ということはなかなか難しい病気ですので、出席については本人の体調によって決定してください。
関連記事:手足口病は大人にもうつる?症状や潜伏期間を徹底解説
手足口病の症状や経過について

ここからは手足口病の代表的な症状や時間経過によりどのように症状が変わっていくかについて詳しく解説します。
手足口病の潜伏期間
エンテロウイルスやコクサッキーウイルスは、感染したのち3−5日間の潜伏期間があります。
潜伏期間の間に周囲に感染を広げる可能性は低いと考えられています。
手足口病のよくある症状
手足口病では潜伏期間のあとに次のような症状がみられることが特徴的です。
- 発熱
- 皮膚の水疱性発疹(みずぶくれ)
- 口腔内の水疱性発疹
続いてそれぞれの症状について少し詳しく説明していきます。
発熱
発熱は3人に1人程度の患者さんで発生します。
あまり高熱となることはなく、ほとんどが38℃以下で長期間続くことはありません。
口や唇などに出る症状

口周囲の粘膜に2~3mmの水疱性発疹が発生します。
時に小さな潰瘍となり、口内炎のような見た目になることもあります。
3日~1週間程度で発疹はおさまります。
また、咽頭(のどの奥)に発疹ができることは少ないとされています。
皮膚に出る症状

手足口病による発疹(小児)(左;手掌、右;足裏)(写真提供;八尾市八木小児科)
手のひらや足の裏、脚の背など、手足の末端に2~3mmの水疱性発疹が発生します。
時に肘やひざ、おしりなどにも出現することがあります。
口の症状と同じく、3日から1週間程度で発疹はおさまります。
おさまる過程でかさぶたをつくることはありません。
その他の症状
発熱と発疹が特徴的な手足口病ですが、時に下痢や嘔吐といった消化器症状を引き起こすことがあります。
また、手足口病はそのほとんどが軽い症状でおさまってしまうことが多いですが、ごくまれに重症な状態となることがあります。
- 中枢神経系合併症(髄膜炎、小脳失調症、脳炎)
- 心筋炎
- 神経原性肺水腫
- 急性弛緩性麻痺
これらの症状は非常に稀となります。
特に重症化する場合は皮疹などの典型的な症状が出ないこともありますので注意が必要です。
関連記事:子どもが汗疹(あせも)になったときはどうすればいい?治し方や湿疹との違い・対策法について
手足口病は大人がかかると重症化する?

子供に多い「手足口病」ですが、大人もかかってしまう可能性があります。
ここでは、大人の感染について説明していきます。
手足口病は大人もうつる?
最初に書かせていただきましたが、手足口病は様々なウイルスが原因となっています。
そのため、感染したことのないウイルスがあった場合は大人になっても感染してしまう可能性があります。
手足口病は子供が感染することが多いため、大人への感染は子供からの感染がほとんどです。
特におむつ替えの際に便からの感染をする場合が多くなります。
子供の症状が治まった場合にも便にはウイルスが残存していますので、十分な注意を要します。
大人が手足口病にかかった時の初期症状や症状
成人の場合は小児の感染と少し異なることが多いといわれています。
初期症状としては
- 発熱
- 全身倦怠感
- 関節痛
- 頭痛
- 咽頭痛
- 嘔吐・下痢
などが多く見られます。
これらの初期症状の後に
- 皮膚の水疱性発疹(みずぶくれ)
- 口腔内の水疱性発疹
がみられます。
初期症状がおさまるまでは約10日間程度、皮膚や口腔内症状がおさまるまでは2週間程度と、子供に比べて症状が強く、長期間続きます。
大人が手足口病にかかってしまったら会社への出勤はいつから?
手足口病は新型コロナウイルス感染症のように自宅療養などといった決まりはありません。
厚生労働省の発表している目安としては「解熱して1日以上経過して、普段通りの食事ができる状態」といわれています。
発熱が改善するまではできるだけお仕事は休むことをおすすめします。
手足口病による妊婦の胎児への影響

日本産婦人科学会からも情報が出ておりますが、ほとんどの成人に感染歴があり、免疫がありますので妊婦への感染はまれと考えられます。
また、妊婦への罹患と胎児異常との関係を証明した報告はありません。
ほとんどの患者さんで、対症療法による経過観察で対応可能と考えられます。
しかしながら、流産や死産、胎児水腫が発生したとの報告もあるようです。(参考:日本産婦人科医会)
妊婦の方で身近に手足口病の患者さんがいる場合は、最低限の感染対策をおこないましょう。
手足口病の感染予防

手足口病に有効なワクチンはなく、予防できる薬や治療できる薬もありません。
感染していても症状が出ていない人も多いです。
また、症状がおさまった後も比較的長期間、便中にウイルスが排出されることがわかっています。
そのため、新型コロナウイルスのような「隔離対策」はあまり効果的ではない予防手段になります。
重症化する患者さんもいますが、ほとんどが軽症あるいは無症状で治る感染症ですので、感染してはいけない病気ではありません。
みなさんも子供の頃にかかっており、免疫をつけてきた感染症です。
それでも感染対策を行う必要がある場合には、
- 流水と石鹸での手洗いをおこなう
- 排泄物(特におむつ)を適切に処理する
ことが有効と考えます。また、タオルは共用しない方がいいと考えられます。
無症状の感染者もいるので、日頃からの手洗い等での対策が必要です。
手足口病の市販の薬での対応
手足口病に効果的な薬はありません。
そのため、症状に対して薬剤を使用していく必要があります。
一般的に薬局などで販売されている風邪薬や解熱剤が使用可能となります。
しかし、子供の体重に合わせた投与量の薬は少ないです。
大人用の薬剤の量を減らして使用することは危険が伴います。
また、他の疾患であった場合、自己判断での経過観察は危険を伴う場合があります。
不安な場合は病院の受診をよろしくお願いします。
まとめ
今回は「夏の三大感染症」の一つである手足口病についてご説明いたしました。
比較的軽症な患者さんが多いため軽く見ていることも多いかと思いますが、少ないながらも重症化のリスクが存在します。
手洗いという簡単な対策で感染を予防することができますので、子供が感染した際はぜひとも感染対策をしていただくようお願いいたします。
参考資料
おたふく風邪の初期症状は?原因や感染経路、合併症について解説

おたふく風邪は、ムンプスウイルスに感染することで引き起こされる病気です。
耳の下に位置する耳下腺部位に炎症が起こり、同部位が腫れる所見を呈することが知られています。
今回は、おたふく風邪についての具体的な症状や治療法、あるいは特に成人男性が罹患した際に不妊症にかかる可能性などについて解説していきます。
おたふく風邪とは

おたふく風邪は、別名で「流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)」とも呼ばれることがあります。
流行性耳下腺炎に罹患すると、耳の下に位置する耳下腺部位に炎症が起こるために、同部位が腫れる所見を呈することが知られています。
特に左右両側が腫脹した際には、「おたふくさん」のように外見上特徴的に認められることから「おたふく風邪」と呼称されるようになりました。
おたふく風邪の原因
おたふく風邪を引き起こすウイルスは、「ムンプスウイルス」です。
ムンプスウイルスはパラミクソウイルス科のウイルスで、大きさは100~600nmです。
表面にエンベロープを認める1本鎖RNAウイルスであることが知られています。
主に6つの構造タンパクを有しており、エンベロープにはふたつの糖タンパク成分が存在していると言われています。

おたふく風邪は、本邦でも毎年のように地域レベルでの流行が認められています。
上図のように、1989 年までは3~4年周期でその罹患率の増減がありました。
しかし、同年のMMRワクチンの導入によって1991年には、*1サーベイランスが始まって以来の低い流行状況となった経緯があります1)。
| *1 サーベイランスとは…ウィルスなどの発生状況を注意深く監視すること |
その後のおたふく風邪は、緩やかに発症者数が増加しています。
1993年にMMRワクチンが中止されたことで、1994年以降から現在にかけて再び3~4年周期で罹患者数の増減傾向が示されるようになりました。
おたふく風邪は、年齢とともにその罹患率は増加する傾向があり、4歳時点が最も多いと言われています。
関連記事;子供がインフルエンザになった時の親の対応|風邪や似ている病気との違いについても解説
おたふく風邪の感染経路

おたふく風邪を引き起こすムンプスウイルスの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。
基本的には、感染者の唾液中にウイルスが大量に存在して排出されており、咳や唾液などが感染源となることが知られています。
飛沫感染においては、感染者の咳やくしゃみ、会話などを通じてウイルスを含有した飛沫成分が周囲に飛散して、感染者の周りにいる人々が鼻や口から吸い込んで感染が成立します。
飛散したウイルスが眼球粘膜から体内に侵入して感染が成立することも経験されます。
接触感染は、感染者とキスをする、あるいはムンプスウイルスが付着している手やドアノブなどに接触した手で、口や鼻を触れることでも感染すると指摘されています。
ムンプスウイルスは耳下腺以外の唾液腺、もしくは膵臓や性腺(精巣や卵巣)などを始めとして消化液や精液など液体成分を生成する腺組織に好発して感染します。
それ以外にも、ムンプスウイルスは脳やせき髄など中枢神経系に感染しやすいことも知られています。
おたふく風邪の症状

ムンプスウイルスに飛沫感染や接触感染によって感染した場合には、数週間前後の潜伏期間を経過しておたふく風邪の症状が出現すると言われています。
おたふく風邪の初期症状

おたふく風邪における初期症状は、耳下腺周囲に炎症を呈することから発熱症状を認めます。
そして耳の下の部分が急激に*1腫脹して同部に*2疼痛症状を伴うこともあります。
| *1腫脹とは:炎症などが原因で、体の組織や器官の一部に血液成分が溜まって腫れあがること *2疼痛症状:からだに危険を伝える痛み |
おたふく風邪を発症した場合には、耳下腺の片側から腫れることが多いです。
1~2日ほどの期間を経て反対側の耳下腺も腫れて左右両側が腫脹することが一般的です。
しかし、時に左右どちらかの片側のみしか腫脹所見を認めないケースもあります。
また、唾液を作成する腺組織に炎症が引き起こされるため、食事を摂取する際に唾液分泌が亢進することに伴って、耳の下や顎の下が特に痛くなるという特徴的な症状が認められます。
通常は、感染後数週間の潜伏期を経て、唾液腺の腫脹や圧痛、嚥下痛、発熱症状などを主として発症し、約1~2週間で症状が軽快していくと考えられています。
ムンプスウイルスの感染力が強い期間としては、発症数日前から発症後5日までと言われています。
しかし、顕著な症状が必ずしも現れるわけではなく、約3割の症例はムンプスウイルスに感染しても有意な症状が出現しない「不顕性感染」の形態を示す場合があります。
この不顕性感染の場合にも、周囲に感染させる恐れがあるため一定の注意が必要となります。
合併症によって後遺症の危険性も?

おたふく風邪にはさまざまな合併症を伴うことがあります。
ムンプスウイルスによるおたふく風邪は、通常であれば重大な合併症を起こすこともなく自然に治癒することが一般的です。
しかし、稀に頭痛や嘔気を伴う髄膜炎(ずいまくえん)という合併症を引き起こす頻度は高いと指摘されています。
髄膜炎などを合併する場合は、耳の腫れが治まるなどおたふく風邪が治癒したと考えられる時期にも認められることがあります。
そのため、おたふく風邪に感染して数週間程度は、合併症の発症有無にも一定の注意を払うことが重要なポイントとなります。
また、おたふく風邪は後遺症として時に難聴を引き起こすことが懸念されており、難聴症状は片側性が多いと言われていますが、左右両側に生じた場合にはなかなか完治せず、長期間聴力障害を抱えることになります。
万が一、両側の耳の聴力が障害されて聞こえなくなると、言語を習得していない段階の子どもでは、周囲の人々の声を聞くことができないために言語発達に悪影響を及ぼします。
部分的な聴力の障害であっても日常生活に少なからず支障をきたすことが想定されます。
このように、おたふく風邪に合併する難聴症状は、ムンプス難聴と呼ばれています。
いまだに毎年のように多くの子どもや成人の感染者が聴力を失っている現状があり、決して見過ごすことが出来ない合併症のひとつであると認識されています。
ムンプス難聴を合併した際には、通常聴力は完全に回復する可能性は乏しいです。
症状がひどい場合には補聴器や人工内耳などの専門医療装置が必要になります。
そして、おたふく風邪になる機会が多い子どもに、ムンプス難聴を合併する頻度が多いとされています。
その子育て世代の大人がおたふく風邪に罹患したことがないケースでは、子どもから大人に感染して難聴になることがあるため、子どもも大人も感染予防策を講じることが重要です。
関連記事:【子どもの喘息】小児気管支喘息とは?悪化してしまう原因や発作が出た時に楽になる方法
おたふく風邪に成人男性がかかった際の不妊について

おたふく風邪は、保育園など集団生活を開始したばかりの子どもなどに多く認められる疾患です。
おおむね6歳までの小児が発症例の約半数程度を占めると言われています。
一生涯に一度、ムンプスウイルスに感染することで生涯免疫が獲得されます。
しかし、時に成人になって初めておたふく風邪に罹患する場合もあります。
特に、成人期に感染したおたふく風邪の場合には、精巣や卵巣など性腺組織に炎症を生じることが知られています。
その場合、発熱症状のみならず、腹痛や陰嚢部の腫れ、同部の痛み症状を伴います。
炎症が及ぶ範囲は片方の性腺だけのことが多いとされています。
しかし、稀に両側性に炎症が起こされることもあり、その場合には性腺組織が萎縮して不妊の直接的な原因になることが考えられます。
おたふく風邪の家庭でできる治療方法

ムンプスウイルスによるおたふく風邪の治療に際しては、基本的には対症療法を行うことが主流となります。
一般的に、家庭で安静を保持して発熱症状や耳下腺部の疼痛症状などに対しては解熱鎮痛剤の服用を行いましょう。
また、脱水にならないように自宅で水分摂取を励行することが重要となります。
なお、溶連菌感染症と異なっておたふく風邪を発症した場合は、学校保健安全法で定められた期間において学校への登校、あるいは保育園への登園を控えることが推奨されています。
基本的には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の膨張が発現してから5日間経過したうえで、全身状態が改善して良好な状態になっていることが登園登校の条件となります。
おたふく風邪に罹患した場合には、耳下腺や唾液腺が腫れてから5日間が経過して、全身状態が軽快するまでは自宅で安静にして様子観察しましょう。
症状が悪化傾向を示す場合、あるいは登校登園など判断に困る場合には、最寄りに存在するクリニックや診療所の医師などに相談して、指示に従うようにしましょう。
関連記事:【医師監修】解熱剤が効かない?解熱剤の種類と使うタイミング、効果や副作用について
病院でできる治療

おたふく風邪の診断は、主に臨床的な所見から実施されますが、おたふく風邪以外にも耳下腺部位が腫脹する疾患は存在します。
そのため、確実な判断ができない際や合併症などを呈して確定的な診断を付けることが必要な場合には、病院などでムンプスウイルス感染を証明する検査を行うことも可能です。
医療機関でウイルス感染を確認するためには、血液検査でウイルス抗体を測定する方法が選択されます。
時にウイルス分離やウイルス遺伝子を増幅させて同定する特殊な検査が実践されることも経験されます。
おたふく風邪の治療は、自宅での対症療法が主体であり、発熱や耳下腺部の痛みに対してアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を用いることが多いです。
しかし、ひどい症状を認めて水分摂取が十分に確保できない場合などには、クリニックや病院で点滴を投与することも考えられます。
万が一、難聴が合併症として認められるケースでは、聴覚障害の重症度に応じて補聴器や人工内耳を使用することを検討します。
おたふく風邪のワクチンについて

現代においても、ムンプスウイルスに対する有効的な薬剤は存在しません。
従って、おたふく風邪を予防する為にワクチンによる予防接種がとても重要な観点となります。
ムンプスウイルスにおけるワクチン接種の予防効果は高く、合併症の発生率も有意に低下させます。
そこで、多くの先進国ではムンプスワクチンの定期接種が今でも積極的に実施されています。
わが国では、1989年から麻疹・風疹・ムンプスの3種混合ワクチンが定期接種として導入された背景があります。
しかし、ワクチン関連の副反応として、発熱や頭痛、嘔吐などを伴う無菌性髄膜炎という有害イベントが多く発生したことから、1993年にムンプスを含む3種混合ワクチンの定期接種は中止されました。
そのため本邦においては2020年時点で、現在の定期接種では麻疹・風疹のみの2種混合ワクチンが用いられており、ムンプスワクチンは任意接種となっています。
近年ではより安全性の高いムンプス単独ワクチンも登場しています。
おたふく風邪に難聴や不妊など合併症が引き起こされる危険性を考慮して、子どもも大人も前向きにワクチン接種しておたふく風邪を予防することが期待されます。
ワクチンの有効性については、接種後罹患調査において接種者での罹患率は1~3%程度です。
接種後の抗体価を測定した研究結果では、概ね90%前後が有効なレベルの抗体を獲得できると考えられています。
有効な抗ウイルス剤がいまだに開発されていない現段階では、学校や保育園など集団生活を過ごす前にワクチン接種によって予防策を講じておくことが有効的な感染予防法です。
自分が幼少期など過去におたふく風邪に罹患したかどうかを検査したい際には、血液検査で抗体の有無を評価します。
罹患したことがない場合や抗体が存在しないケースでは、ワクチンを積極的に接種することを検討しましょう。
ムンプスワクチンは2回接種するのが望ましいです。
接種する上で不安を感じる、あるいは判断に難渋する場合にはかかりつけ医や最寄りの小児科や内科など医療機関に相談するように心がけましょう。
おたふく風邪の感染予防

おたふく風邪に感染しないように気を付けることとして、日常的な手洗いやうがいを実行する、あるいは咳エチケットなどによって飛沫感染や接触感染を予防することは一定程度有効的であると考えられます。
ところが、これらの日々の対策によって完全におたふく風邪を予防することはできません。
おたふく風邪を効果的に予防するにはワクチン接種が唯一の方法です。
おたふく風邪に罹患しないのみならず、合併症を予防するために予防接種を実践することが重要です。
子どもは1歳からワクチンを接種することができますし、大人もあわせておたふく風邪のワクチンを計2回接種して十分な免疫を獲得しておくことが重要な観点となります。
まとめ
ムンプスウイルス感染によって引き起こされる流行性耳下腺炎は、通常2~3週間の潜伏期を経て発症します。
片側あるいは両側の唾液腺腫脹を特徴とするウイルス感染症であり、主な症状としては発熱と耳下腺・顎下腺・舌下腺の唾液腺における疼痛症状であると認識されています。
通常のケースでは、発症してからおおむね1~2 週間で症状は軽快します。
時に難聴など重大な合併症を認めることが知られています。
その中でも最も多い合併症は*髄膜炎であり、それ以外にも睾丸炎、卵巣炎などを合併して不妊症に陥る場合があります。
| *髄膜炎:脳の周りを覆っている髄膜に炎症がおこる病気 |
「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」は第2種感染症に指定されています。
基本的には耳下腺、顎下腺又は舌下線の腫脹が発現した後5日を経過して、全身状態が良好に治癒するまでは登校や登園など出席停止と規定されています。
おたふく風邪には特異的な治療法はありません。
初期段階では、自宅家庭内で解熱鎮痛剤、患部冷却等の対症療法が実践されます。
万が一症状が悪化する場合や水分が十分に摂取できない時には、医療機関で点滴投与などが行われます。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
喉のかゆみはなぜ起こる?併発しやすい症状や対処法を紹介

喉のかゆみは日常生活でよく経験する不快な症状の一つです。
しかし、その原因はさまざまであり、正しい対処法を選択することが重要です。
本記事では、喉のかゆみの原因や対処法について詳しく解説します。
喉のかゆみの原因は?

脱水症状
喉のかゆみの一つの原因は脱水症状です。
十分な水分を摂取しないことで、喉の粘膜が乾燥してかゆみを引き起こすことがあります。
脱水症状の兆候として
- 喉のかゆみ
- 喉の渇きの増加
- 尿の色が濃くなる
- 尿の量が通常より少ない
- めまい
が挙げられます。
脱水症状は、病気で嘔吐や下痢を経験した場合や、または発汗量が増加した暑い日に起こりやすくなります。
バクテリアやウイルスへの感染
喉のかゆみは、ウイルスやバクテリアによる感染が原因となることがあります。
風邪やインフルエンザなどの感染症が喉の炎症を引き起こし、かゆみをもたらします。
特に喉がヒリヒリしたり、飲み込むときに痛みを感じる場合は、ウイルスや細菌がのどの組織に影響を与えている可能性があり、早めに医師の診察を受けることが必要です。
アレルギー症状
アレルギー反応も喉のかゆみを引き起こす原因となります。
花粉やハウスダストなどのアレルギーは、体内でヒスタミンが分泌され、喉の粘膜に刺激を与えます。
その結果、喉のかゆみやくしゃみ、鼻水といった典型的なアレルギー症状が現れるのです。
アレルギー性鼻炎が関係している場合、喉のかゆみが長引くことが多いため、適切な治療が必要です。
環境性の刺激(タバコの煙、化学物質など)
タバコの煙や化学物質、汚染された空気などが喉の粘膜を刺激し、炎症を起こします。
特に喫煙者や受動喫煙にさらされている人は、このような環境要因で喉がかゆくなることがります。
また、工場や研究所などで使用される化学物質にさらされることも喉のかゆみの原因となるため、原因となる物質を避けることが大切です。
乾燥
乾燥した空気が喉の粘膜を刺激し、かゆみを引き起こします。
乾燥した気候、室内暖房のある冬の間、またはエアコンの効いた環境でかゆみを感じやすくなります。
これは、喉を保護する粘液が減少し、外部からの刺激に対して敏感になるためです。
加湿器を使用して湿度を適切に保つことや、水分を十分に摂取することで、喉の乾燥を防ぐことができます。
後鼻漏
後鼻漏とは、鼻から喉にかけて粘液が流れてしまう状態です。
これが喉のかゆみを引き起こします。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因となり、後鼻漏が発生しやすいです。
特に寝ている間に粘液が喉に溜まりやすくなっています。
後鼻漏が頻繁に起こる場合は、鼻のアレルギーや炎症の治療が必要です。
胃食道逆流症
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸が食堂に逆流し、喉の粘膜を刺激してかゆみを引き起こすことがあります。
特に夜間に、横になっている間に逆流が起こりやすく、起床時に喉のかゆみやヒリヒリ感を感じることがあります。
慢性的な喉のかゆみや痛みがある場合、適切な治療が必要です。
呼吸器疾患
喘息や気管支炎などの呼吸器疾患も、喉のかゆみの原因となります。
呼吸器疾患は、呼吸をする際に気道が狭くなり、炎症や刺激が喉に及びかゆみや痛みを感じることがあります。
これらの疾患は乾いた咳や息切れを併発することが多く、喉に負担をかけるため、違和感やかゆみをますことが一般的です。
関連記事:アレルギーが原因で起きる咳の特徴|効果のある薬や治し方を紹介
喉のかゆみと併発しやすい症状について

乾燥や脱水症状の場合
暖房やエアコンを日常的に使う冬や夏には、喉が乾燥しやすくなります。
乾燥や脱水症状による喉のかゆみには、口や喉の乾燥感、喉の痛みなどが併発しやすいです。
感染症の場合
風邪やインフルエンザ、咽頭炎、扁桃炎など感染症は喉のかゆみの大きな原因です。
これらは主にウイルスや細菌によって引き起こされ、喉のかゆみ以外にも発熱、咳、喉の痛みなどの症状が一緒に現れることがあります。
アレルギーの場合
アレルギーによる喉のかゆみには、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどのアレルギー症状が同時に現れることがあります。
食物アレルギーは喉のかゆみだけでなく、皮膚の発疹や呼吸困難といった重篤な症状を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。
環境性の刺激物の場合
タバコの煙、強い臭気、化学物質、大気汚染などの刺激物にさらされると、喉の粘膜が刺激され、かゆみが生じます。
環境性の刺激物が原因の場合、目の痛みや頭痛、くしゃみなどが喉のかゆみと共に現れることがあります。
後鼻漏の場合
後鼻漏とは鼻からのどの奥に流れている鼻水のことで普段は全く気になりませんが、鼻水がたくさんのどに流れ込むことで、喉のかゆみの原因になります。
後鼻漏による喉のかゆみには、鼻詰まりやくしゃみなどの症状が併発しやすいです。
喉のかゆみの対処法

水分補給
脱水症状や乾燥が原因の場合、水分補給を積極的に行いましょう。
水や清涼飲料水、温かいお茶などをこまめに摂取し、喉の乾燥を防ぎます。
部屋の加湿
乾燥した室内環境が原因の場合、加湿器を使用して部屋の湿度を保つことで、喉の乾燥や炎症を和らげることができます。
加湿器を使用する際は、水の交換や清掃も忘れずに行うことが重要です。
加湿器を清潔にすることで、カビや細菌の繁殖を防ぐことができます。
うがい
喉のかゆみや炎症を和らげるために、塩水やうがい薬を使ったうがいを定期的に行うことが効果的です。
薬の使用
症状が軽度な場合は市販ののど飴やのどスプレーなどの薬を使用することで、かゆみを和らげることができます。
ただし、医師の指示に従って正しい薬を選択し、使用するようにしましょう。
関連記事:【喉の痛みや熱】子供が溶連菌感染症になったときはどうする?学校や保育園は休むべき?
舌で喉をかく行為はNG?

舌で喉をかく行為は避けるべきです。
舌で喉をかくことで喉の粘膜を傷つける可能性があり、感染症のリスクを高めることがあります。
かゆみを感じた場合は、喉をかく代わりにうがいや水分補給を行いましょう。
喉のかゆみに効く市販薬を紹介

喉のかゆみを抑えるのにおすすめの市販薬を紹介します。
アレルギー性の方におすすめの市販薬
- クラリチンEX
- アレグラFX
- レスタミンコーワ糖衣錠
花粉症や特定のアレルゲンによってかゆみが起こっている場合には、アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン成分が含まれている薬剤がおすすめです。
ただし、これらの薬剤は花粉症などの鼻のアレルギーの症状を緩和に使用されるものであり、直接喉のかゆみに適応があるわけではありません。
腫れや炎症がある方におすすめの市販薬
- パープルショット 30ml
- スコールトローチS
- のどぬ~るスプレーB 25mL
喉の腫れや炎症がある方には、抗炎症成分や抗殺菌成分のある薬剤がおすすめです。
剤型にも、うがいやトローチ、錠剤などもあり、シチュエーションに合わせて使いやすいものを選びましょう。
場合によっては併用することも可能です。
関連記事:喉の痛みの市販薬でよく効く商品をランキング形式で徹底比較!
喉のかゆみについてのまとめ
喉のかゆみはさまざまな原因によって引き起こされますが、適切な対処法を選択することで症状を和らげることができます。
自己診断や自己治療は避け、症状が持続する場合は医師の診断を受けることが重要です。
特に症状が重い、または長期間続く場合は、受診して原因を特定し、適切な治療に努めましょう。
【参考文献】
手が震える理由とは?ストレスが原因?考えられる病気や疾患を解説

気が付いたら手が震えるという経験はありませんか?
医学用語では震えのことを、手の「振戦(しんせん)」と呼びますが、実は振戦には多くの原因があります。
中には大きな病気が隠れていることもあるので、手の震えが続くようであれば、一度最寄りの病院へ相談するようにしましょう。
今回はそんな手の震えの原因や、手の震えが出やすい人の特徴、病院へ行くべき理由などについて詳しく解説していきます。
手が震える原因とは

手が震える原因は、実は多岐に渡ります。
生理的振戦

生理的とは、生命活動をしていれば誰にでも一定程度みられる現象を指し、病的な意味合いはありません。
指の運動は神経によって緻密にコントロールされており、かすかな震えが生じることがあります。
本態性振戦

本態性とは、原因がはっきりしないと言う意味の医学用語になります。
つまり、本態性振戦とは、問題となるようなはっきりとした原因がなく、ふるえが出現する病気という事です。
別の言い方をすれば、震えること以外は問題がない、病気はないという事になります。
身体の病気の症状の一つ

色々な疾患で、手が震えると言う症状がみられます。
全てを列挙することが難しいので、代表的な疾患を列挙します。
最も多いのが、パーキンソン病と言う神経疾患です。
その他、甲状腺機能亢進症や、低血糖発作などといった内分泌代謝系の疾患や、脳出血や脳梗塞といった脳血管障害の後遺症などで見られます。
薬やお酒の離脱症状

お薬の中には手の震えを副作用とするものがあります。
薬剤性パーキンソニズムと言って、薬の副作用によってパーキンソン病と似た状態になってしまうことによって生じます。
また、お薬の中には、その薬を急に中断することによって手の震えが出現する物もあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状が代表例です。
また、お酒も、習慣的に長期に続けている場合、お酒が切れてくると手が震えると言う離脱症状が出現することがあります。
ストレスや緊張などの心的な要因

ストレスや不安、緊張は、神経系に影響を与えて手の震えを引き起こすことがあります。
緊張する状況下ではより顕著になります。
関連記事:立ちくらみの原因は病気?吐き気と肩こりとの関係性について
手が震えるときに考えられる病気

ここからは、手が震える際に考えられる病気などについて詳しく解説してきます。
本態性振戦

先述しましたが、本態性とは、原因がはっきりしないと言う意味の医学用語になります。
つまり、本態性振戦とは、問題となるようなはっきりとした原因がなく、ふるえが出現する病気という事です。
別の言い方をすれば、震えること以外は問題がない、病気はないという事になります。
症状が軽い場合は、特段の治療を必要としない場合もありますが、物をつかむことが難しい、文字を書くことが出来なくなったなど、日常生活に支障を来すようになれば、薬物療法などの適応になります。
甲状腺機能亢進症に伴うもの

喉の前面に甲状腺と言う小さな臓器があります。
主に代謝に関係しているホルモンを作っているのですが、何らかの原因により甲状腺からホルモンが過剰に出てしまう病気を甲状腺機能亢進症と呼びます。
甲状腺機能が亢進してしまうと、安静にしていても、激しい運動をしているのと同様な状態になります。
体重が減る、動機がする、大量に汗をかく、といった症状のほかに、手の震えも、この疾患では良く見られます。
パーキンソン病に伴うもの

パーキンソン病は、手の震え、動作緩慢、筋固縮、姿勢保持障害を特徴とする、神経疾患です。
ふるえは、静止時(力を入れていない時)におこり、手を動かすとふるえが小さくなります。
関連記事:パーキンソン病になりやすい人の特徴や症状とは?|原因から治療、社会サービスの解説
アルコール離脱に伴うもの

アルコールを習慣的かつ長期間続けていると、アルコールを急にやめた時や、アルコールが切れた時に離脱症状が出現することがあります。
離脱症状の一つに、手のふるえがあります。
アルコールを再度摂取すると症状がなくなるため、依存性が強くなる危険性があります。
脳血管障害の後遺症

脳血管障害は、脳出血や脳梗塞などの総称です。
手先の筋肉をコントロールしている神経領域が、脳出血や脳梗塞によって障害を受けると、後遺症として手が震えることがあります。
低血糖によるもの

著しい低血糖によって手の震えが生じることがあります。
特に糖尿病患者さんに多く見られます。
関連記事:糖尿病の症状|低血糖・高血糖別の違いは?三大合併症についても-横浜内科・在宅クリニック
薬剤性

お薬の中には手の震えを副作用とするものがあります。
薬剤性パーキンソニズムと言って、薬の副作用によってパーキンソン病と似た状態になってしまうことによって生じます。
また、お薬の中には、その薬を急に中断することによって手の震えが出現する物もあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状が代表例です。
心因性

ストレスや不安、緊張は、神経系に影響を与えて手の震えを引き起こすことがあります。
緊張する状況下ではより顕著になります。
手の震えが出やすい人の特徴

ここでは、生理的な震えや、体の病気に伴う震えではない、本態性振戦について詳しく説明します。
本態性振戦は震えのみが症状の病気です。
言い換えると、震え以外の症状はみられないのが特徴です。
40歳以上では4%程度
65歳以上では5~14%程度
が本態性振戦の患者であるとの報告があります。
ご家族の中に本態性振戦を持っている方が多い場合は、若い方でも本態性振戦になる方もいらっしゃいます。
しかし、一般的には年齢を重ねるとともに増加傾向にあります。
裏を返せば、50歳未満で、本態性振戦の家系でないのに手が震える場合は、何らかの体の病気を発症している可能性もあります。
早めに病院を受診するようにしましょう。
本態性振戦では、一般的に運動時(手を動かしている時)に震えの症状が現れます。
本態性振戦と良く比較されるパーキンソン病の震えは、安静時(手を動かしていない時)に震えると言う特徴があります。
本態性振戦の震えは、症状が軽いうちは問題になりませんが、以下など、日常生活に不自由をきたすようになると治療が必要になります。
- 字が書きにくくなる
- お箸やスプーンなどが使いにくくなる
- 手に持ったコップの水がこぼれる
本態性振戦の原因は、まだよく分かっていませんが、精神的に緊張すると症状が悪くなることなどから、興奮したときに働く交感神経の関係が疑われています。
また、遺伝の関与も指摘されており、家族や親類にも同じように本態性振戦の人がいる場合は注意が必要です。
関連記事:子どもに多い起立性調節障害の症状とは|原因や治し方を解説
手の震えを治す治療方法は?

では、手の震えを治す際の治療方法はどんなものがあるのでしょうか?
以下では治療方法について詳しく解説していきます。
薬物療法

振戦の症状を軽減するために、薬物療法が行われることがあります。
主に使用されるのは、β遮断薬や、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗てんかん薬などによって、神経の過剰な活動を抑制します。
理学療法

理学療法は身体機能の改善と安全性に焦点を当てています。
筋力、バランス、柔軟性の改善を目指したエクササイズやストレッチング、リラクゼーションなどを通して、筋肉のコントロールを向上させることを目指します。
深部脳刺激(しんぶのうしげき(DBS))

特に重たいパーキンソン病の患者や、薬物療法に十分に反応しない患者に対しては、深部脳刺激(DBS)が選択肢となることがあります。
これは、特定の脳の領域に電気信号を送る装置を外科的に埋め込む手法で、振戦や他の運動症状を軽減します。
専門施設でのみ行われる治療であり、専門医との十分な検討が必要です。
生活習慣の改善

ストレスにより緊張状態が継続すると、交感神経が昂り、手のふるえにつながることがあります。
十分な睡眠、休養が必要です。
また、定期的な運動、バランスの取れた食事、良好な睡眠衛生、ストレス管理などの生活習慣の改善は、様々な病気の予防にとって非常に重要です。
手の震えを感じたら病院へ行くべき理由

手の震えの原因で解説したように、甲状腺や低血糖といった内分泌・代謝性の疾患や、脳血管障害やパーキンソン病といった神経疾患、その他にもアルコールや現在の内服薬、そしてストレスなどの精神的な問題まで、原因は多岐に渡ります。
特に高齢者は、「年だから」と軽く考える方も散見されます。
しかし、どういった原因で手の震えが起こっているのかは病院で診察や検査などを行わないとわかりません。
一度医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。
関連記事:突発性難聴になったら放置せずにすぐに病院へ行くべき理由を解説
まとめ
今回は、手の震えの原因や、手の震えが出やすい人の特徴、病院へ行くべき理由などについて詳しく解説してきました。
いかがでしたでしょうか?
手が震えることを、手指の振戦と呼びます。
振戦には生理的振戦と言って治療を必要としない場合もありますが、中には体の病気や、お酒や薬の影響、ストレスなどが原因であることもあるため、一度検査をしてみましょう。
急性扁桃炎の症状や早く治す方法を解説|急性咽頭炎との違いは?

のどの痛みはとても辛い症状ですよね。
またのどの痛みから食事が取れないことで脱水を起こし、さらに症状を悪化させることもあります。
のどの痛みを起こす病気は多数存在し、中には重症化すると命に関わることがあります。
今回はそんなのどの痛みが起こる原因や、症状、治し方などについて詳しく解説していきます。
のどの痛みでお困りの方必見です。
急性扁桃炎になる原因
のどの構造について


のどは専門用語で咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)と表現される管の構造です。
咽頭は鼻腔や口から連続した構造で、下方には喉頭が存在しています。
咽頭は上から下にかけて、上咽頭、中咽頭、下咽頭と分類されます(図参照)。
咽頭・喉頭の分類としてのイメージは、以下の認識です。
- 咽頭は食べ物の通り道
- 喉頭は空気の通り道
咽頭では、口で咀嚼された食事がさらに咽頭の壁で潰され、食道へ流されます。
喉頭は声門を介して気管と連続し、呼吸の際に空気が出入りします。
食事が食道までに到達するまでには、”嚥下(えんげ)”という機能が働き、咽頭と喉頭が協調して働き、食物が気道に落ちずに食道に入って行くように調整してくれています。
この機能が病気や加齢でうまく行かなくなり、食事が気管に落ちてしまうことを誤嚥(ごえん)と言います。
扁桃(へんとう)ってなに?どこにあるの?

よく扁桃腺(へんとうせん)という言葉を耳にしますが、これは医学用語ではありません。
扁桃という言葉が正確な用語になります。
それでは扁桃とは何をしている臓器でしょうか?
扁桃は、体の外から侵入してきたウイルスや細菌などの微生物に対する免疫学的な役割を果たしています。
実際に、この扁桃組織では免疫反応を起こす上で大切なリンパ球が多数みられます。
『扁桃腺をとる手術』というフレーズもよく聞きますが、ここで言う扁桃腺(扁桃)とはどの部位を指しているでしょうか?
多くはこの扁桃とは”口蓋扁桃(こうがいへんとう)”のことを言っています(図参照)。

しかし、実際には口腔・咽頭領域には多数の扁桃組織が存在しています。
この口腔・咽頭領域に多数存在する扁桃組織は輪っか状に配列されており、Waldeyer(ワルダイエル)咽頭輪(いんとうりん)と呼ばれます。
ワルダイエル咽頭輪には、口蓋扁桃の他に以下が左右対称に配列しています。
- 舌扁桃(ぜつへんとう)
- 耳管扁桃(じかへんとう)
- 咽頭扁桃(いんとうへんとう)別名:アデノイド
- 咽頭側索(いんとうそくさくえん)
ペンライトなどで口の中を見た時に実際に見えるのは口蓋扁桃と咽頭側索のみです。
咽頭扁桃、耳管扁桃は鼻の奥の方に存在し、舌扁桃は舌の付け根(後ろの方)に存在しているため、耳鼻咽喉科の検査で使用する喉頭鏡やファイバーを用いないと見ることはできません。
参考に、それぞれの扁桃組織の写真を掲載します。
これは、30代後半ののど所見です。ちなみに私ののどの写真です。

みなさんはこれを見て、どう感じるでしょうか?
赤い矢印はあるものの口蓋扁桃以外はどこにあるのかよくわからないのではないでしょうか?
それが普通の感想だと思います。
実は、これらの扁桃組織は子供では大きいのですが、成長発達に伴って縮小してしまい、口蓋扁桃以外ははっきり残りません。
厳密には口蓋扁桃も多くの成人では、ほとんど萎縮してしまい痕跡的な所見となることが多いです。
これらの扁桃組織はパッと見はわかりません、いざ風邪などののどの炎症の病気になった時に急に変化して、炎症所見を見せてくれます。
つまり炎症所見がないとはっきりしないのが扁桃組織です。
参考に子供(6歳)の扁桃所見を以下に提示します。

扁桃組織がよくわかるように、やや肥大気味の扁桃所見の患児の写真を掲載しました。
これは因みに私の子供の写真です。
大人(私)と比較すると、口蓋扁桃が大きく内側に突出しています。
咽頭扁桃(アデノイド)もやや大きく盛り上がっています。
舌扁桃も大人と比べるとぼこぼこした度合いが強いように見えるかと思います。
ややいびき症があるうちの子供は、このように扁桃肥大がありますが、普通のお子さん(6歳程度)は、もう少し扁桃は小さいです。
口蓋扁桃について

それではもう少し扁桃組織の構造についてフォーカスしていきましょう。
その代表格である口蓋扁桃について深堀りします。
先ほど『扁桃は、体の外から侵入してきたウイルスや細菌などに対する免疫学的な役割を果たしています』と言いました。
では、これはどのようにして反応が起こるのでしょうか。
そのためにはまずは口蓋扁桃の構造をみていく必要があります。
扁桃の語源は、『アーモンド』です。
口蓋扁桃がアーモンドの形に似ていることからこの名前が命名されました。

アーモンドの表面ってゴツゴツしていますよね。
実は扁桃組織の表面もへこみがあり、いびつな表面をしています。
なんでいびつな構造をしているかというと、表面には扁桃陰窩(へんとういんか)といって、くぼみのような構造があります。
この陰窩が免疫学的に非常に大切な構造です。
このくぼみにウイルスや細菌などが入り込みやすくなることで、中に入った微生物に対する免疫反応を起こしやすくしています。

文献1より引用・改編
この上図は、口蓋扁桃組織表面の電子顕微鏡の写真です。
表面は非常にゴツゴツしており、凹凸があります。
さらにピンクで囲んだ部位が陰窩のくぼみであり、クレーターのようになっています。
このクレーターの中には免疫細胞である貪食細胞(どんしょくさいぼう‐微生物を食べてその情報を仕入れる細胞)やリンパ球を主体とした各種の細胞が存在しています。
クレーターの中に存在している白っぽい毛羽だった球体が免疫細胞です。
この陰窩という構造はこのように、穴のくぼみで異物を引き寄せ、免疫細胞が常にスタンバイされていることにより、微生物をやっつけるのと同時に、この微生物に対する免疫反応を起こさせる構造になっています。
ハエトリグサの生存戦略みたいな感じですね。
このように、扁桃組織とは外から入り込んでくる微生物をトラップして、やっつける役割と、その微生物に対して免疫を作る役割があると考えられています。
つまり、扁桃組織は微生物に対してウェルカムな環境であり、感染自体も起こりやすい臓器であることがわかります。
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急性扁桃炎の主な症状

炎症ってなにがおこってるの?
急性扁桃炎は扁桃の機能を考えると、”感染による炎症”と”免疫反応による炎症”を考慮する必要があります。
扁桃組織の感染はイメージしやすいかと思います。
先ほど述べた扁桃の陰窩に細菌やウイルスが取り込まれ、そこで感染が成立することです。
一方で、免疫反応による炎症は、良いことのように聞こえますが、これも強い症状の原因となります。
感染と免疫反応による炎症は独立した現象のように思われますが、実は連動しています。
感染は、その部位で成立すると何がおこるでしょうか?
体は、その感染した微生物を生体から排除しようと頑張ります。
その感染に対する頑張りというのが、炎症という現象です。
炎症の基本は、微生物が生存しにくい環境作りをするということです。
例えば、むし歯に関して言えば、歯の根っこや歯周に感染が成立して、感染に対して炎症が起こると、歯の周囲は腫れあがり、熱を持ち、痛くてご飯が食べられませんよね。
これは、炎症の5兆候という現象が組織で起きているからです。
炎症の5兆候とは、医学では非常に大切な考え方で、これをよく理解すると医学の大原則の一つを理解したようなものですが、今回は簡単に紹介いたします。
以下に5つの兆候を示します。

-
- 発熱
- 熱感
- 腫脹
- 疼痛
- 機能障害
この5つは、独立した現象ではなく、連動したメカニズムで起こります。
感染した組織はまず、細胞から『たすけてー』という悲鳴が出ます。
このときに、細胞から様々な物質が放出されますが、これは炎症性サイトカインといって、大変なことが起こったという悲鳴を周りの細胞や遠くの臓器に伝える手紙のような役割があります。
この炎症性サイトカインは、その感染が起こった組織においては、周囲の血管を拡張させます。
すると、暖かい血液が流れている血管の組織に対する割合が増えることで、組織の温度が上昇し、組織の熱感が生じます。
それとともに、血管は拡張すると、間質という細胞と細胞の間の隙間に血管の中を流れている血漿成分(けっしょうせいぶん‐血液の中の赤血球とか白血球などの細胞を除いた成分)が漏れ出ていきます。

これを滲出液といいますが、これが間質に溜まると、組織局所は腫れます。
このように、血管拡張がおきたり、臓器に水が溜まると、周りの組織に圧力がかかります。
臓器の表面には膜がありますが、基本的にその膜に末梢神経が入っていることが多く、この膜が引っ張られると神経も引っ張られることにより、痛みが起こります。
また、炎症性サイトカイン自体が、組織に分布する末梢神経を刺激して痛みを起こす仕組みもあります。
ここまでが、炎症に伴う疼痛(とうつう)のメカニズムです。
さらに、この組織の腫れが強くなると、生体の正常機能がしにくくなりますね。
例えば、手足の関節が感染して腫れてしまうと、腫れによって滑らかな関節運動はできなくなり、引っかかりのあるような運動となってしまいます。
これを炎症による機能障害と言います。
そして最後に発熱ですが、これは炎症性サイトカインが遠くに作用するとおこります。
どこに作用するかというと、脳の視床下部(ししょうかぶ―内分泌や自立機能の調整を行う総合中枢)です。
全身のどこかの臓器(組織)で炎症がおこると、炎症性サイトカインが産生され、これが血管に入って、はるばる脳まで流れて行きます。
視床下部は、自律神経や内分泌系臓器に働きかけ、全身のコンディションを整えてくれる縁の下の力持ちです。
体温もここ視床下部がこっそりと調整してくれて、外界が熱ければ、体温を下げ、寒ければ体温を上げてくれます。
この機能を自由に調節できたら、どんな環境でも生きることができるスーパーマンですが、これは自分の意思ではコントロールできません。
そんな視床下部に、炎症性サイトカインが作用すると、微生物が生体内で生存しにくい温度まで体温をさせます。
これが発熱の原理です。
ここまでが、組織でおこる炎症の第1章です。
ここから、さらに第2章に進みます。
第1章で、血管から水が漏れ出してくると言いましたが、局所に炎症があるとサイトカインが、入ってきた微生物を駆逐したり食べたりする細胞を呼び寄せます。
この細胞は、白血球(好中球、リンパ球、好酸球、好塩基球、単球など)と呼ばれ、局所で免疫反応を起こし、さらに炎症が強化されます。
因みに菌が感染すると好中球、ウイルスが感染するとリンパ球が誘導されて反応を起こします。
このようにして、感染が成立すると、感染による炎症もありますが、免疫反応としての炎症も連動しておこります。
炎症反応はどこの臓器でもおこります。
しかし、ここで扁桃炎に話を戻しますが、扁桃組織はそれ自体が免疫臓器です。
口蓋扁桃の構造のところで示しましたが、扁桃は陰窩があり微生物が入りやすく、白血球と反応しやすい場所であり、免疫反応を起こしやすい特徴があると述べました。
つまり、扁桃炎は感染によるものと免疫反応による症状がダブルパンチで起こりやすい臓器ということになります。

扁桃における炎症の症状
それでは、2-1でお話した炎症の機序が扁桃組織に起きたとき、どのような症状がおこるでしょうか?
咽頭痛(のどのいたみ)

これはイメージつきますね!
扁桃組織の中で、炎症の結果、血管が腫れる、水が漏れる、炎症の細胞が増える、炎症性サイトカインによる神経への刺激などにより、鋭い痛みが出ます。
何もしなくても痛いですが、特に食事を飲み込む(嚥下時)に激痛が起こります。
嚥下時は、扁桃周囲の筋肉が、ぎゅーっと収縮して、ご飯を口からのどに落とし込みますが、そのときに扁桃組織も一緒にぎゅーっと搾られる感じになります。
もともと痛いところをぎゅーっと押し潰されたら、それは痛いですよね…
頸部リンパ節腫脹

扁桃炎が起こると、首のリンパ節が腫れます。
これは、頸部には所属リンパ節といって、のどの中のとある部位で炎症などのトラブルが起こると、この辺のリンパ節が最初に腫れ、次にこのリンパ節が腫れていくといった具合に腫れが連鎖していきます。
扁桃炎(口蓋扁桃炎)で腫れるのは、だいたい下アゴの内側あたりのリンパ節から腫れが始まり、側頸部(耳たぶから下に下ろしていったライン)のリンパが続きます。
発熱

これは、2-1でお話した通りで、扁桃から産生された炎症性サイトカインが、脳の視床下部に作用して、体温調節することで、発熱します。
急性咽頭炎や急性喉頭炎との違いは?

まず扁桃炎や咽頭炎、喉頭炎の写真をお示しします。
咽頭炎と喉頭炎について
まず、コトバを見てみましょう。
| 急性 → 急におこる 咽頭、喉頭 → のどの場所 炎 → 炎症 |
ということになりますので、違いは炎症が起こる場所が違うという意味になります。
1-1で咽頭と喉頭の言葉の説明をしましたが、咽頭と喉頭は連続した構造であり、実際にのどで起きていることを見ることができる耳鼻咽喉科の医師でない限り、症状からこの2つの病気を分類することは困難です。
むしろ、咽頭炎と喉頭炎は同時進行で起きていることが多く、耳鼻咽喉科でも急性咽喉頭炎というざっくりした診断名をつけることが多くなります。
しかし、今起きている現象が、どちらかというと咽頭炎ベースなのか、喉頭炎ベースなのかということを考えることが、今後起こりうることを想定する上で大切です。
咽頭炎ベースなのか喉頭炎ベースなのかを判定する症状のヒントを以下に示します。

咽頭炎ベースと思われる症状
・頭痛
・怠さ
・鼻詰まり
・後鼻漏
喉頭炎ベースと思われる症状
・声枯れ
・咳(乾いた咳)
・呼吸困難感
・ヒリヒリしたのどの感じ
・のどの違和感
咽頭は、上咽頭から下咽頭に分かれ、縦に長い臓器なので、症状の範囲も広くなります。
上から下咽頭まで炎症が同時に起こることもありますが、まずは上咽頭や中咽頭から炎症がはじまり、二次性に下咽頭まで炎症が起こる印象があります。

炎症波及の流れ
・上咽頭を起点とした炎症波及
上咽頭→中咽頭→下咽頭
・中咽頭を起点とした炎症波及
中咽頭→下咽頭
下咽頭を起点として、上に炎症が登ってくるというのはあまりみられません。
腫瘍性の病気の場合はありえます。
また下咽頭と喉頭は、ほぼ同じ高さにある構造であり、喉頭の炎症と下咽頭の炎症はほぼ100%同時におこるといってもいいでしょう。
扁桃炎と咽頭、喉頭炎について

それでは、扁桃炎と咽頭炎、喉頭炎との関連性について見ていきましょう。
それぞれの扁桃組織がどこにあるか、以下に示します。
上咽頭に存在する扁桃
耳管扁桃、咽頭扁桃(アデノイド)
ここに炎症起こすと、、上咽頭炎
中咽頭に存在する扁桃
口蓋扁桃、咽頭側索、舌扁桃
ここに炎症起こすと、、口蓋扁桃炎、咽頭側索炎、舌根扁桃炎
基本的にそれぞれの扁桃が炎症を起こしたときに、その周囲の咽頭、喉頭組織に炎症を波及させるので、咽頭扁桃や耳管扁桃の炎症であれば、上咽頭炎を引き起こし、口蓋扁桃の炎症であれば中咽頭の炎症となります。
1-1で述べた咽頭、喉頭の構造を見返していただければ、理解しやすいと思います。
耳鼻咽喉科では、扁桃炎を細かく言う先生は、上咽頭炎、口蓋扁桃炎、咽頭側索炎、舌根扁桃炎と分類することもあります。
急性扁桃炎(細菌性)は、以下の図のように、扁桃は赤く腫れあがり、その周囲の粘膜も赤くなり、陰窩を起点に膿が溜まったようなのどの所見となります。

次に、上咽頭炎は、以下の写真のように上咽頭に膿がベターっとついています。
ちなみにこれは耳鼻咽喉科のファイバーを使用しないと見えません。
子供のように残存した咽頭扁桃組織が腫れ上がる方もいます。

続いて、舌根扁桃炎です。
舌の付け根のあたりを上から眺めている写真になりますが、ぼこぼこはれた舌扁桃組織の表面に膿栓がつきます。

このように急性扁桃炎と咽頭炎では所見が異なります。
ご自身でも口の中を見てみるといいでしょう。
両側の口蓋扁桃(アーモンド)が赤く腫れ上がっていたり、扁桃の中に白いポツポツや白い膜のようなものが覆っていたりした場合は、急性扁桃炎の可能性があります。
細菌感染とウイルス感染について
また、菌の感染なのかウイルスの感染なのか、はたまた菌とウイルスの混合感染なのかで、炎症の場所がなんとなくわかることもあります。
全身の感染症全てで言えることではありますが、
一般的にウイルスは、組織の広い範囲にダメージを与える。
細菌は、狭い範囲に強い炎症を起こす。
というイメージでしょうか。
のどでいえば、
ウイルス性だと咽頭(上から下)炎、喉頭炎と広く障害を与え、
細菌だと扁桃、咽頭といったように一箇所にしっかり根を張って感染を起こし、そこからゆっくり周りの組織に炎症を広げていく
といった感じです。
ウイルスと細菌ではサイズも全く異なります(ウイルスは細菌の1/50ほどの大きさ)し、組織への感染の仕方も全く異なります。
ウイルスは基本的に慢性感染を起こしにくいですが、細菌は組織に慢性感染を起こして根を張るという違いからおこることが想定されます。
扁桃組織は構造上、細菌の慢性感染を引き起こしやすく、一度慢性感染を起こすとなかなかスッキリ治りにくいです。
しかも、慢性感染状態だと、いつでも急性感染の状態(咽頭痛や発熱などツライ症状を起こしやすい状態)になりやすいといった特徴があります。
大まかにですが(厳密には違います)、
急性扁桃炎は、細菌感染症
急性咽喉頭炎は、ウイルス感染症
というイメージをもってよいでしょう。
ウイルスはのどの粘膜の一つの細胞に感染すると、細胞内に入り込み壊し、次々に周辺の細胞を壊しながら増殖するという感染したときの特徴があります。
このメカニズムによって、どんどん広い範囲に炎症を波及させ、のど全体を焼け野原にします。
のどの粘膜には異物から守るバリア機能が存在しますが、焼け野原になるとこのバリア機能は破綻します。
そうすると、二次性に容易に細菌感染を起こします。
鼻やのどには菌はたくさん存在していますが、感染が起こらないのはバリアがあるおかげです。
いざ、このバリアが破壊されたときに、本来は共生していて悪さをしなかった細菌も、人体に感染を起こして炎症を起こすようになるのです。
それ故に菌の感染がおこるのは、バリアを破綻させる原因として、ウイルス感染がその前にあったというだけでなく、物理的な外傷や空気の湿度、温度なども原因となり得ます。
外傷はイメージしやすいかと思いますが、空気の湿度や温度ってそんなに大切??と思われるかもしれません。
吸入する空気の状態と粘膜について

ここでは、みなさんが普段している呼吸について考えてみたいと思います。
人間は、通常鼻呼吸をしています。
しかし、鼻炎(アレルギー性鼻炎や風邪)や口腔機能に問題がある場合は、鼻呼吸から口呼吸に切り替わります。
この口呼吸が、実はのどの状態を劣悪な環境にしてしまうのです。
鼻の機能ってなんでしょうか?
鼻は匂いをかいだり、呼吸する上での通り道という漠然とした認識があると思いますが、鼻は気道の入り口で非常に大切な役割を果たしています。
そのうちの3つの大切な役割をお示しします。
1、ろ過・浄化
2、加温
3、加湿
呼吸する上で、吸入する空気には色々な物質が含まれています。
ウイルスや細菌などの微生物や花粉やホコリなどの異物などが、たくさん入ってきます。
これらの異物を鼻でブロックするのが、1のろ過・浄化作用
鼻毛で大まかにフィルタリングされ、実際に鼻の中に入り込んでしまったら、鼻粘膜表面の粘液や線毛(粘膜表面に生える微細な毛の構造)によって、のどに流されます。
ここの防御線をも超えてきた微生物に対しては、白血球の中の好中球やリンパ球による感染防御や免疫反応を起こし、微生物を撃退します。
花粉やホコリなどの異物に対しては、アレルギー反応による、くしゃみや鼻汁分泌でこれ以上の異物の侵入をブロックするように働きます。
これらによって、のどや気管、肺に異物が入ってこないようにしています。
また、外から入ってくる空気は微生物や異物が存在しなくても、のどや気管に都合の悪い空気の場合もあります。
では、のどや気管に都合の良い空気とはどのようなものかと言うと、『適度な湿度、温度』の空気です。
鼻は、2、加温機能、3、加湿機能によってこの都合の良い空気の状態を作ってくれます。
特に、温度20℃、相対湿度50%の空気を吸入すると、鼻呼吸が機能していれば、上気道(咽頭、喉頭のレベル)で温度32℃、相対湿度90%まで調整し、気管が初めて左右に別れる部位においては、温度37℃、相対湿度100%まで加温・加湿してくれます(文献2参照)。
この“加温加湿、防塵機能付きエアコン“のような機能をもつ鼻を介さずに、口呼吸がおこるとどうなるでしょうか?
乾燥した冷たい空気がのどに入ってくることで、のどの粘膜にダメージをきたします。
のどの粘膜にも鼻と同様に線毛と粘液による粘膜バリアが存在しています。
これらは乾燥と冷気により粘膜線毛機能が低下し、気道の炎症を引き起こし、喘息や慢性閉塞性肺疾患といった炎症性疾患やインフルエンザやコロナウイルス感染症などの気道感染症を引き起こしやすいことがわかっています(文献3参照)。
特に口蓋扁桃は、感染を起こしやすい臓器とお話しましたが、口呼吸のもとでは、なおさら感染を起こしやすくなります。
このような感染を繰り返すうちに扁桃は慢性的な炎症をおこす結果、しだいに組織の肥大(過形成)をきたし、大きな扁桃組織となってしまいます(文献4参照)。
詳細は割愛しますが、これがお子さんでおこると、小児睡眠時無呼吸症候群につながり、睡眠障害や成長発達障害の原因となります。
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急性扁桃炎はうつる?

基本的に、急性”扁桃炎”は感染しません。
しかし、特殊なウイルスでおこる扁桃炎は、キスなど唾液を介した接触があるとうつります。
厳密には、見た目は急性扁桃炎(細菌性)ですが、EBウイルスというウイルス感染による伝染性単核球症があります。
急性”咽喉頭炎”はうつる可能性があります。
先ほど述べた、いわゆるウイルスによる咽喉頭炎です(扁桃炎ではなく)。
伝染性単核球症について

EBウイルスは、乳幼児期に70-90%の人が感染し、持続感染とともにEBウイルスに対する抗体を持ち、特に症状もなく大人になります。
しかし、思春期以降まで感染しなかった人が、大人になって初めて感染した時に激烈な症状をきたします。
つまり、うつる可能性のある扁桃炎のカテゴリーに入れてしまいましたが、EBウイルスはほとんどの方が幼少期に感染を起こし、すでに持続感染し抗体を保持していいます。
そのため、伝染性単核球症(でんせんせいたんかくきゅうしょう―EBウイルスによって引き起こされる病気)の患者さんとキスをしたからといって、発症する可能性は低いと考えられます。
伝染性単核球症のEBウイルス感染はあくまでも発症のきっかけでしかなく、感染によって二次的におこる免疫反応が病態となる疾患です。
扁桃にはリンパ球が存在すると言いましたが、そのリンパが反応で大量に増殖して扁桃に免疫学的な炎症を引き起こしてしまうというのが原因です。
扁桃所見としては、口蓋扁桃だけではなく、咽頭扁桃や舌扁桃などの扁桃組織にもベターっとした白い炎症産物をくっつけます。
特徴的なのは、頸部のリンパ節の腫れ方です。
細菌性の急性扁桃炎では、顎の下のリンパ節が腫れることが多いですが、伝染性単核球症では、後頸部といって、首の後ろのほうのリンパ節が腫れることが多いです。
また、採血ではウイルス感染を示唆する炎症の値や特殊なリンパ球が血液中に出てきます。
そして、肝機能障害も起こします。
伝染性単核球症の厄介なところは、ぱっと見て急性扁桃炎と鑑別が難しいところです。
しかも、急性扁桃炎でよく使用するペニシリン系の抗生物質を使用すると、全身に皮疹をおこす可能性があるというのも特徴的で、注意を要します。
さらに、伝染性単核球症の症例の1/3に細菌性の急性扁桃炎を合併するために、抗生剤の投与が必要になることがあります。
そのため、抗生剤をどうするか、、というのが医者泣かせの疾患であります。
のどの所見や採血検査結果から、以下を考察したうえで処方に踏み切る必要があります。
- 処方する前に急性扁桃炎なのか?
- 伝染性単核球症なのか?
- はたまた混合感染なのか?
急性咽喉頭炎について

急性咽頭炎も喉頭炎も言わば『かぜ』です。
多くは風邪ウイルス(ライノ、RS、アデノ、エンテロ、コロナ、インフルエンザなど)感染による咽頭や喉頭の炎症です。
では、なぜ『かぜ』はうつるのか?という疑問が浮上するかと思います。
先ほど、ウイルスは人の細胞内に侵入し、壊しては周辺の細胞にまた感染を繰り返してウイルスを増殖していくと言いました。
その過程で焼け野原でぼろぼろとなった細胞表面の粘液にもたくさんのウイルスが付着しているのです。
そして、風邪ウイルス(気道感染ウイルス)や壊れた気道の表面の細胞は、気道の神経を刺激して、あたかも喘息のようなアレルギーと似たような反応を引き起こします。
それによって、鼻であればくしゃみや鼻水、のどや気管であれば咳や痰といった症状が反射的に生じます。
それによって、粘膜に付着していたウイルスは、体外に吹き飛ばされます。
これによって近くにいた人が、そのくしゃみや咳に乗った空気を吸い込むと感染します。
これを飛沫感染といい、昨今の新型コロナ感染症も基本的にはこの感染様式をとり、多くの感染者を生み出してしまいました。
風邪ウイルスの種類によって症状の出方は少なからず異なりますが、基本的に上気道症状(咳や鼻水、咳など)は起こります。
しかし、厄介なことにこのウイルス性急性咽喉頭炎と、アレルギー性鼻炎やそれに伴う咽喉頭症状は非常に似ているため、医者泣かせの症状となります。
ときにアレルギーがベースにあり、そこにウイルス感染も併発している人も見られるので、さらに対応が難しくなります。
鑑別のヒントとなる症状として、鼻やのどのむず痒さがあるときは、アレルギーによる(アレルギーがベースとなる)症状と考えてよいでしょう。
その他の感染症について

その他の咽頭痛を起こす、”うつる”可能性のある感染症を列挙します。
・小児感染症
ヘルパンギーナ:発熱、咽頭痛で発症し、口腔の軟口蓋(のどちんこおよびその周囲)に口内炎のような炎症を起こす。
風疹:全身(顔面、頸部、体幹、四肢)への急速に進行する皮疹と口腔内の粘膜疹(点状の出血斑や紅斑を口蓋に認める)を起こします。
手足口病:舌、口唇粘膜、頬粘膜、軟口蓋に口内炎のような粘膜疹が生じる。手のひらや足の裏に小さい水疱が生じる。
・性感染症
扁桃炎の盲点となる疾患が、性感染症です。
以下に列挙する、疾患は一般的な急性扁桃炎との鑑別が時に困難となるため、通常の経過ではない場合は性感染症を疑うべきです。
梅毒による咽頭扁桃病変、淋菌やクラミジアによる咽頭扁桃炎、HIV感染による咽頭扁桃炎
急性扁桃炎の重症化と入院が必要なケース

急性扁桃炎は重症度によって、だいぶ症状と治療法が異なります。
急性扁桃炎により水が飲めない

軽い扁桃炎であれば、唾を飲み込んだときの軽いのどの違和感くらいです。
しかし、重症化すると食事摂取が困難なほどの、のどの痛みになります。
のどが痛く、飲み込みがうまくいっていない患者さんののどの写真を示しますが、炎症所見とともにのどの食道との繋ぎ目の部位に、痰がたまっているのが特徴です。
これは、嚥下障害の患者さんと同じ所見で、扁桃炎の場合は、痛みのために、自然と飲み込むことを回避してしまっているので、のどに痰がたまっています。

食事がとれないと脱水になります。
数日間くらい食事(栄養として)が摂れないというのは、人間はそれほど問題になりません。
一カ月くらいであれば、絶食でも体に蓄えられていた脂肪やタンパク質を分解することでなんとかなります。
しかし、脱水だけはそうはいきません。
水を4〜5日くらい一滴も飲まないだけで、人間は死んでしまいます。
つまり、急性扁桃炎のために脱水になるくらい飲水ができない場合は、点滴で脱水を是正してあげる必要があります。
つまり入院が必要となります。
急性扁桃炎が重症化した扁桃周囲膿瘍

扁桃(口蓋扁桃)は、咽頭収縮筋などの筋肉に包まれて存在しています。
その筋肉と扁桃の間はうすーい被膜という構造があり、ここは炎症がない子供などでは、ペリペリすぐに剥がれるという特徴があります(もちろん部分的に筋肉が腱として入り込むので、落ちてきちゃうなんてことはありません)。
急性扁桃炎の炎症が慢性化、重症化したときに、この薄い被膜が存在している部位に膿がたまってしまうことがあります。
これを扁桃周囲膿瘍と呼びます。
扁桃周囲膿瘍の患者さんの口から見た写真を下に示しますが、基本的に片側の扁桃とその周囲の軟口蓋粘膜が腫れて左右差があるのがおわかりでしょうか。

扁桃周囲膿瘍の特徴は、どんどん首の下の方に落ちていくという特徴があります。
首の下の方の筋肉や臓器などの器官どうしの隙間には、扁桃と同じく被膜があり、ここは基本的に炎症を周りに波及しやすく、膿が上の方で作られると、重力で下にどんどん落ちていくという特徴があります。
これがさらに最重症となると、頸部膿瘍(けいぶのうよう)や縦隔膿瘍(じゅうかくのうよう)を起こします。
縦隔(肺と心臓の間の隙間)まで膿が落ちる縦隔膿瘍という病気は、放置すれば2人に1人が亡くなる病気になることがあります。
扁桃周囲膿瘍の治療は切開または針穿刺で、膿を抜くことが原則です。
これは耳鼻咽喉科でしか処置はできません。
基本的に切開処置をした場合は、入院となることが多いです。
しかし、扁桃周囲膿瘍は、痛みが非常に強く、食事摂取はほぼ不可能であり、入院が妥当と考えます。
扁桃周囲膿瘍を考慮する症状は以下などがあります。
- 嚥下時の激痛
- 口が開きにくい
- こもった声になる
- 呼吸困難感
- 食事摂取、飲水困難
- 片側だけののどの痛み
このような症状のときは、無理せずお仕事は休んで、耳鼻科に受診しましょう。
急性喉頭蓋炎と喉頭浮腫

次に急性扁桃炎と間違いやすいですが、放置すると命に関わる疾患として急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがえん)と喉頭浮腫(こうとうふしゅ)について説明します。
急性喉頭蓋炎
1-1.において、のどの解剖の最後に嚥下について説明しました。
空気の通り道と食事の通り道を隔てつつ、誤って食事が空気の通り道に落ちない役割をしている喉頭蓋という構造が喉頭にありす。
この喉頭蓋に感染がおこる(多くはインフルエンザ菌という細菌の感染)と、急性喉頭蓋炎という病気を発症します。
急性喉頭蓋炎は、空気の通り道に異物が詰まったような状態になるため、炎症が進行すると空気のとおり道を塞いでしまい呼吸ができなくなります。
唾を飲むと激痛+呼吸困難感(空気をうまく吸えない)という症状があった場合は、急性喉頭蓋炎の可能性があるため医療機関へ受診することをお勧めします。
下に急性喉頭蓋炎の写真(左)を載せます。
右は正常な方の喉頭蓋の写真ですが、厚ぼったさが全く違いますね。

喉頭浮腫
喉頭浮腫は喉頭組織全体もしくは、喉頭披裂部(こうとうひれつぶ)という部分が浮腫(粘膜の中に水膨れができるようになる)によって、これも空気の通り道を塞いでしまう病気です。
原因としては、アレルギーなどの炎症性疾患や感染でひきおこります。
しかし、アレルギーに伴う喉頭浮腫はあまり喉が痛いという症状は目立たないです。
しかし、感染による喉頭への炎症波及では強い痛みを伴います。
感染に伴う喉頭浮腫は、これまでに挙げてきた疾患全てが悪化した際には起こりうる病態です。
例えば、扁桃周囲膿瘍でも喉頭浮腫を合併することはありますし、舌扁桃炎はでは、解剖学的に隣に喉頭がありますので、炎症が伝わりやすく、喉頭浮腫を合併することが多いです。
急性喉頭蓋炎も喉頭浮腫もともに緊急入院を要する疾患です。
入院し、ステロイドや抗生剤の点滴が必要となります。
受診されて、空気の通り道があまりにも狭く、体の中の酸素の値が低くなっていたり、狭いことでヒューヒュー音がするくらいの場合は、かなり緊急性が高く、緊急気道確保(気管挿管、気管切開)を要することもあります。
場合によっては一刻を争う状態となる疾患であり、自覚症状によっては救急車で受診をする必要があります。
急性扁桃炎の治し方について

急性扁桃炎に対して、①症状に対するお薬 と ②原因に対するお薬 があります。
①症状に対するお薬 ⇨ 痛みどめ、熱さまし
②原因に対するお薬 ⇨ 抗生剤(抗菌薬)、扁桃炎の炎症を落とすお薬
急性扁桃炎に対する市販薬

①症状に対応するお薬:痛みどめ
ロキソニンS®︎(ロキソニン)、イブA錠®︎(イブプロフェン)、ラックル®︎、バファリン®︎、(カロナール)など
ロキソニンやイブプロフェンはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)という薬剤です。
カロナールにはない抗炎症作用があり、鎮痛剤としては鋭く効果があります。
しかし、胃に負担がかかったり、喘息の方に使用した場合に喘息発作を誘発するなどの副作用があり注意が必要です。
カロナールは妊婦さんや小児にも使用できますが、マイルドな薬剤なので重症度の高い急性扁桃炎には効果は今一歩である可能性があります。
②原因に対するお薬:炎症を抑えるお薬
抗生物質の内服は市販では一般的に売られていません。
それ故に病院に受診して処方してもらうしかありません。
市販薬としては、扁桃の炎症を抑える作用としてハレナース®︎、ペラックT錠®︎などがあります。
これらにはトラネキサム酸やカンゾウ(漢方薬)が含有されており、トラネキサム酸は炎症局所で増加する酵素のプラスミンを抑え局所の腫れを抑制し、カンゾウは主成分のグリチルリチンが作用し、炎症を抑えるように働きます。
ともにマイルドな効果であり、急性扁桃炎の初期治療として有用です。
急性扁桃炎に対する病院での処方

①症状に対するお薬:痛み止め
解熱、鎮痛剤については、市販薬と同じでロキソニンやカロナールとなります。
しかし、病院ではこれらのお薬の注射での点滴薬もあるので、あまりにも強い咽頭痛の患者さんには注射薬を使用することもあります。
②原因に対するお薬:抗生剤
治療として、病院では抗生剤(細菌をやっつけるお薬)の処方ができます。
咽頭炎単独の場合は処方されないこともありますが、扁桃炎で重症化のリスクがあると判断された場合は、抗生剤を処方されます。
ウイルス性咽頭炎に対して、ウイルスをやっつけるお薬(抗ウイルス薬)はくれないの?という疑問があるかもしれませんが、ウイルス感染に対しては基本的に抗ウイルス薬は使用しません。
ウイルスに対しては、患者さんの免疫力(自然治癒力)に期待して、①のお薬や咽頭の修復を補助するお薬がでます。
抗生剤としては、まず推奨されるのはペニシリン系のお薬で、サワシリン®️やオーグメンチン®️などです。
ときに、セフェム系のフロモックス®️やメイアクト®️、ニューキノロン系のレボフロキサシン®️やジェニナック®️、ラスビック®️などが処方されることもあります。
しかし、4-1で伝染性単核球症の患者さんにペニシリン系のお薬を使用すると、全身に皮疹を生じる可能性があるということを述べました。
つまり、ペニシリン系はこの病気でないことを確認した上で処方します。
入院した場合は、これらの抗生剤の点滴薬を使用します。
それぞれの薬剤ごとで薬効は異なりますが、基本的に内服薬より点滴薬の有効性は高くスッキリ治りやすいです。
急性扁桃炎に対するそのほかの対応
1番大切なのは、脱水にならないことです。
6-1で述べましたが、重症化して食事や飲水がうまくできない場合は、入院してしっかり点滴してもらうことが大切です。
痛いけど大丈夫だろうと我慢すると、脱水になって命に関わる状態に繋がったり、悪化して扁桃周囲膿瘍などに繋がるリスクがあります。
急性扁桃炎に対する病院での処方例
①ロキソニンまたはカロナール
②サワシリン、トランサミン、ムコダイン、うがい薬
アレルギー性鼻炎による口呼吸が強く影響していると考える場合、+αで抗ヒスタミン薬(ビラノア®️、デザレックス®️など)、ロイコトリエン受容体拮抗薬(キプレス®️)などを併用することがあります。
急性扁桃炎にならないために
休養と睡眠は大切!
扁桃炎は感染が持続的になると、慢性化すると3−3で述べましたが、慢性扁桃炎となります。
慢性扁桃炎とは、扁桃組織に持続的に菌の感染が成立してしまい、いつでも急性扁桃炎を繰り返しやすくなってしまう状態です。
では、なんでこのように扁桃炎を繰り返してしまうのでしょうか?
ここでは、慢性扁桃炎の患者さんの体調と口腔内環境が大切になってきます。
体調とは、仕事や家庭のストレスや疲れ、睡眠不足が続いているなどの状況が関与してきます。
これらの身体的な負担は、体を陰ながら調整している自律神経に作用します。
全身の自律神経機能を調べる検査を用いた研究で、扁桃疾患の患者さんは副交感神経活動が低下し、交感神経活動が亢進している状態であったと報告されています(文献5)。
唾液腺(唾液を作る工場)は副交感神経が主に唾液の水分を、交感神経がタンパク質の分泌を担っています。
唾液は1日に1〜1.5リットル産生され、唾液の約99.5%は水分でできているために、口の中を潤しておくためには副交感神経刺激による唾液の水分量が非常に大切になります。
ストレスや疲れが強く、睡眠不足を起こしている患者さんは交感神経機能が活性化し、副交感神経の機能が低下しているために、口腔内は水が少なく、口腔内乾燥症の状態となります。
交感神経刺激により唾液中のタンパク質として抗菌物質なども含まれ産生が起こりますが、口腔乾燥症の状態ではこの機能がうまく作用できません。
口腔乾燥は口腔内の菌の状態を悪くすることが報告されており、溶連菌や口腔内の歯周病に関与する菌を増やします(文献6)。
慢性扁桃炎は溶連菌や歯周病に関する菌が、扁桃組織で慢性感染起こしていることが多く、これらの菌が口腔内で増える環境を作ることは、急性増悪として急性扁桃炎を引き起こすリスクを高めることに繋がります。
3-4で述べた、口呼吸も口腔環境を悪化させるために、このストレスによる口腔乾燥症と相まって注意すべきです。
それ故、扁桃炎にならないためには、無理に頑張りすぎたりしないことが大切です。
急性扁桃炎を繰り返す患者さんが、働き盛りの20〜40歳の男性に多いのはこのためと考えられます。
また最近では、アレルギー性鼻炎の有病率も高く(日本人の2人に1人!)、それに伴う無自覚の口呼吸の患者さんも多いと感じます。
そういった患者さんには、アレルギー対策も扁桃炎反復を阻止する上で有効ではないかというのが私見です。
喫煙は急性扁桃炎にも悪い!
喫煙は、口の中の環境を悪化させることで、急性扁桃炎の誘発因子です。
タバコの煙には、三大有害物質であるニコチン、タール、一酸化炭素が含まれています。
これらの物質は、口腔内の悪玉菌を増やす方向に働く作用と、口腔内の粘膜および全身の免疫系への作用があります(文献7)
ともに協調して口腔環境を悪くします。
とくに喫煙による一酸化炭素の上昇と、酸素分圧の低下は、口の中の悪玉菌である嫌気性菌(空気が嫌いな菌)を増やします。
嫌気性菌は扁桃炎の原因菌として多く、この菌が口腔内で増えると、急性扁桃炎のリスクファクターになりますので、喫煙は控えましょう。
受動喫煙でも同様の現象がおこるというデータもあり、パートナーや家族の喫煙も控えるように指導が必要です。
これらの扁桃炎に対する予防にも関わらず、急性扁桃炎を反復する場合(習慣性扁桃炎)は、扁桃摘出術の適応となり、全身麻酔下の手術となります。
関連記事:頭痛の原因|種類によって痛む場所は違う?対処法や外来での治し方
まとめ
急性扁桃炎は、軽症から入院を要する重症まで様々な患者さんがいらっしゃいます。
咽頭痛の症状には本コラムでお話したように、さまざまな怖い疾患が隠れていることがあり、単なる扁桃炎ではないこともしばしばあります。
耳鼻咽喉科の病気は普通は目に見えないところに原因がありますので、咽頭痛をおこすどの疾患であっても、まずは医師にのどを見せてくれるというのが、診療の第一歩になります。
特に急性扁桃炎は、20-40歳代の若くてバリバリ働いている世代の方が発症することが多い疾患です。
お忙しいかと思いますが、無理をせず休んで、病院に受診してみると、案外スッキリ治ってしまうことが多いので、早めの受診をおすすめします。
参考文献
1)Marko Jovic et al. Ultarastructure of the human patlatine tonsil and its functional significance. Rom J Morphol. 56(2):371-377, 2015.
2)高橋英夫:呼吸における加温・加湿の生理. Clinical Engineering 14 : 917-923 , 2003.
3)David A. Edwards, Kian Fan Chung.Mouth breathing, dry air, and low water permeation promote inflammation, and activate neural pathways, by osmotic stresses acting on airway lining mucus. CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS. 14 February 2023.
4)Lizhuo Lin et al. The impact of mouth breathing on dentofacial development: A concise review. Front. Public Health, 08 September 2022.
5)上月景之. 扁桃疾患における自律神経の関与に関する研究. 耳鼻臨床 82:6 ; 887-893, 1989.
6)田端宏充ら:保湿スプレー療法による口腔内乾燥症患者の口腔湿度および舌背部細菌叢への影響. 日摂食嚥下リハ会誌 18(1):44–52, 2014.
夏風邪の特有の症状とは|長引く理由や治し方を解説

暑い夏の季節に夏風邪にかかってしまうと発熱や鼻汁、くしゃみのために、とても辛い思いをしてしまいます。
さらに、咽頭痛や咳などの症状も見られると、気分も体調もすぐれない日々が続いてしまいます。
夏風邪は主にウイルスが原因で起こります。
しかし、エアコンの使いすぎによる温度差や夏バテなどで体力が低下していることなども要因となり得ます。
この記事では夏風邪の原因や症状、対策について詳しく解説していきます。
せっかくの夏に体調を崩さないようにするために、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
夏風邪になる原因

夏風邪は主にウイルス感染と夏特有の環境要因が組み合わさることによって引き起こされます。
ウイルス感染

原因となるウイルスは以下などが挙げられます。
- アデノウイルス
- ライノウイルス
- コロナウイルス
- RSウイルス
- パラインフルエンザウイルス
これらのウイルスは、感染した患者さんのくしゃみや咳から飛散する飛沫によってウイルスなどの病原体が、気道内に入って増殖することから始まります。
しかし、全員が風邪を発症するわけではなく、発症するかどうかは、環境や感染した人の状況によって異なります。
また小児の夏風邪も多くみられ、小児の場合にはヘルパンギーナや手足口病といった別のウイルス性疾患の可能性もあります。
これらのウイルス感染症は夏に向けて患者数がだんだんと増えていき、7月にピークを迎えるとされています。
エアコンや温度差などの環境要因

侵入したウイルスによって風邪を発症するかは環境による影響も大きいです。
エアコンの使いすぎによる屋内外の温度差は体温調節のバランスを崩し、免疫力が低下してしまうので感染しやすくなると考えられます。
そのため、屋内にいる時には室温を下げすぎないようようにすることが大切です。
また、室温の調整ができない場合には衣類で調節するなどの対策をとることが重要です。
関連記事:発熱の基準は何度から?外来に行くべき目安やよくある症状を解説-横浜内科・在宅クリニック
夏風邪の症状

一般的に風邪はウイルス感染症なので多くの症状を出します。
夏風邪の場合も同じように次のような多彩な症状を出します。
これは原因となるウイルスが様々であることが1つの要因です。
発熱

夏風邪でも高熱が発生することがあります。
発熱は風邪の一般的な症状ですが、夏は気温自体も高いので、体温が高くなりやすく高熱を出してしまうことがあります。
咳

ウイルスによって喉や気道が刺激されることで、咳が頻繁に出ることがあります。
特に夜間に咳が悪化することがあるため、眠れないという方もいらっしゃいます。
喉の痛み

喉の痛みも一般的な症状です。
喉の粘膜が炎症を起こすことで痛みを生じます。
鎮痛薬の使用で軽減しますが、水分がとれないほどの痛みの時には点滴をする場合もあります。
下痢

ある種のウイルスでは胃腸炎を起こして腹痛や下痢を呈することがあります。
エアコンの使いすぎにって起こっている場合もあるので、気温の調節や水分をとって脱水症にならないようにすることが大切です。
関節痛

ウイルス感染による炎症によって関節や筋肉の痛みが生じることがあります。
夏風邪とコロナの見分け方

結論から言うと症状だけで両者を見分けることが困難です。
もともとコロナウイルスは風邪でよくみられる一般的なウイルスだったコロナウイルスが変異を起こし、感染力と病原性が高くなり世界的に流行したものです。
しかし、最近ではコロナウイルスに感染しても軽症の方が多くいます。
そのため、症状だけで夏風邪とコロナウイルス感染を見分けることは難しいと考えられます。
見分ける方法の目安としては以下などの点が挙げられます。
- コロナウイルス感染者と濃厚接触した経緯がある
- 味覚や嗅覚の異常がある
- 下痢や嘔吐などの消化器症状がみられる
関連記事:熱中症の治し方や予防対策|熱射病や日射病との違いは?
夏風邪はうつる可能性があるのか

夏風邪になる原因としてウイルス感染があるため、夏風邪はうつる可能性があります。
ウイルスに感染した人がくしゃみや咳をしたときに飛沫として放出され、ウイルスが気道に入り込んで増殖することで感染します。
感染を防ぐためには手洗いやうがい、こまめな換気やマスクの着用などの対策が有効です。
夏風邪は大人でもなりえるのか

夏風邪は年齢、性別に関係なく起こり得るので、大人でも注意が必要です。
一般的に子供の方が免疫力が低いので夏風邪にかかりやすいです。
しかし、大人でもエアコンが効きすぎている屋内にいて体温調節がうまくいかなくなってしまった場合や、夏バテで免疫力が落ちている場合には夏風邪を引きやすくなってしまいます。
そのため、普段から手洗い・うがいなどの感染予防対策を行うことが重要です。
関連記事:咽頭結膜熱(プール熱)ってどんな病気?大人もかかる?流行性角結膜炎との違いも解説- 横浜内科・在宅クリニック
夏風邪が長引いてしまう理由

一般的に風邪は早く治るのですが、夏風邪が長引いてしまう場合もあります。
夏風邪が長引く要因について解説していきます。
免疫力の低下

夏は暑さによって体力を消耗しやすい時期です。
暑さや冷房の影響で体温調節が乱れてしまい、免疫力が落ちてしまうことがあります。
免疫力が弱まるとウイルスに対する抵抗力が低くなってしまい、感染が長引く可能性があります。
不適切な治療

症状が軽いからと自己判断の治療をして病院を受診しなかったり、休養を取らなかったりすることも症状が長引いてしまう理由の1つです。
早めに病院を受診したり、症状がよくなるまで十分に休むことが長引かせないために重要です。
夏風邪の治し方

夏風邪の原因はほとんどがウイルスなので、基本的には休養と症状を和らげるお薬を使うことで自然によくなります。
ウイルスは肺炎などを起こす細菌と違い、特別な治療はありません。
ウイルスは非常に小さく、どんどん変異していきますし、かかっても自然によくなるので、特定の抗ウイルス薬がないので現状です。
そのため抗菌薬(抗生物質)は効果がなく、特別なお薬も通常であれば必要ではありません。
発熱に対しては解熱鎮痛薬を使用し、咳や痰、のどの痛みなどの症状に対しては症状を和らげるお薬を使います。
それでも症状が悪化している時にはウイルス感染以外の別の病気や全身状態の悪化が考えられます。
そのため、病院を受診し診断をつけてもらうことや、点滴などで治療を行う場合もあります。
夏風邪にかかった時にはしっかり休養し、症状の観察をしながら悪化傾向があれば早めに病院を受診するようにしましょう。
また他の人にうつさないようにマスクや手洗い・うがいなどを徹底するようにしてください。
まとめ
今回は、夏風邪の原因や症状、対策について詳しく解説してきました。
いかがでしたでしょうか?
夏風邪は主にウイルスに感染することで起こります。
エアコンの使いすぎによって体温調節のバランスが悪くなることや夏バテなどによる体力低下も要因になりえます。
夏風邪は健康な方であれば自然によくなることが多く、特別な治療は不要です。
しかし、他の人にうつしてしまう可能性があるので、しっかりと休養して手洗いうがいなどの感染対策をするようにしましょう。
また夏風邪と思っていても別の病気の可能性があります。
体調に少しでも不安を感じたら、無理せず早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献
‣日本呼吸器学会|呼吸の病気-A. 感染性呼吸器疾患「かぜ症候群」
‣国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター|厚夏に気をつけたい感染症は「夏かぜ」「とびひ」「食中毒」夏風邪に抗菌薬は効果がありません
群発頭痛の原因や治し方は?頭痛の特徴や対処方法について、詳しく解説します。

ストレス社会と言われる現在の世の中において、毎日の慢性的な頭痛により健康的な日常生活が送れず悩んでいる方によく出会います。
この記事をご覧になっている方の中にも、今まで頭痛に悩まされた経験のある方は、少なくないはずです。
頭痛の多くは、片頭痛や筋緊張型頭痛といって比較的発症が緩やかで、繰り返す慢性の頭痛です。
しかし、頭痛の中には、突然の発症や、想像もできないほどの痛みですぐに治療が必要になる頭痛も隠れています。
今回は、頭痛の中でも比較的頻度は少ないですが、激しい症状を認めることのある群発頭痛について、現役医師がわかりやすく解説していきます。
群発頭痛とはどんな症状?

頭痛には様々な種類がありますが、大きく2つに分けることができます。それは一次性頭痛と二次性頭痛です。
一次性頭痛は、機能性頭痛とも呼ばれます。
一次性頭痛は、頭痛自体が病気とされるもので、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがあげられます。
二次性頭痛とは、器質性頭痛とも呼ばれます。
頭部外傷による急性頭痛や、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎などの病気が原因で、症状のひとつとして頭痛があらわれるというものです。
一次性頭痛に比べ、二次性頭痛の割合は少ないものの、場合によっては死亡につながったりや後遺症に関わることもあるため、注意が必要となります。
群発頭痛は、片方の目の奥や、目の上からこめかみにかけて激しい痛みを起こすことが特徴の頭痛です。
痛みの程度は、人間が感じる痛みの中でも最悪と感じられるほど強い痛みと言われています。
群発頭痛の有病率は、0.05~0.4%、つまり、人口10万人のうち、約50~400人と報告されています。
20~40歳の比較的若い年齢層に多い病気で、男女比は10:1と男性に多く発症します。
一時性頭痛の中では、緊張型頭痛、片頭痛が多くみられる病気であり、片頭痛は、日本人の約8%以上が罹患していると言われています。
群発頭痛は、これらの病気よりは頻度が少なく、頭痛の中ではめずらしい病気とも言えます。頭の片方に数時間続く激痛を感じた場合は、群発頭痛の可能性があります。
群発頭痛の主な原因

群発頭痛の原因は、現時点ではまだ明らかにはなっていませんが、様々な説が提唱されています。
その一つとして、頸動脈が脳内に入るところで血管が拡張し、目の奥にある血管の周りに炎症を起こすため、痛みを感じるという説があります。
頸動脈の周りには、自律神経が密集しているため、炎症による自律神経への刺激でさまざまな症状が起こるようです。
また、その他にも、脳の視床下部の異常、ホルモンバランスの変化による説などが報告されています。
適切な治療の選択のためにも、原因の特定は必要であり、今後さらなる研究の進展が望まれます。
関連記事:こわい頭痛の見分け方!頭痛で吐き気やめまいがする原因と対処法!
群発頭痛の診断と特徴

群発頭痛の診断には、世界共通の診断基準として、国際頭痛学会のICHD-3という診断基準が用いられています。
症状の特徴としては、頭の片側の特に目の奥や目の上、こめかみの部分に激しい痛みが15分~180分持続します。
また、目の充血や流涙、鼻水、鼻づまり、発汗や不穏(興奮して落ち着きがない状態)などの症状を伴うことがあります。
群発頭痛は、医療機関でCTやMRIなどの画像検査や血液検査などをしても、異常は認められません。
これらの症状を繰り返し、画像検査で頭の中に他に原因となる病変がない場合、群発頭痛の可能性が高いといえるでしょう。
群発頭痛の診断基準(ICHD-3)

A .B~Dを満たす発作が5回以上ある
B .重度~きわめて重度の一側の痛みが眼窩部、眼窩上部または側頭部のいずれか1つ以上の部位に15~180分間持続する
C .以下の1項目以上を認める
1 .頭痛と同側に少なくとも以下の症状あるいは徴候の1項目を伴う
a) 結膜充血または流涙(あるいはその両方)
b) 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)
c) 眼瞼浮腫
d) 前額部および顔面の発汗
e) 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)
2 .落ち着きのない、あるいは興奮した様子
D .発作の頻度は1回/2日~8 回/1日である
E .ほかに最適なICHD-3の診断がない
群発頭痛の治療方法について

群発頭痛の治療は、大きく分けて、発作時の治療と発作予防のための治療の二つに分けられます。
発作時の治療には、トリプタン製剤の皮下注射や高濃度の酸素投与が強くすすめられます。
群発頭痛は、短時間持続する激痛が特徴であるため、発作時にはこのような即効性が高い治療が有効となります。
トリプタン製剤の皮下注射は、自己注射用の専用キットも販売されているため、発作時は医療機関外でもすぐに対応することが可能です。
群発頭痛の発作予防のためには、ベラパミルというカルシウム拮抗薬を用います。
群発頭痛は、激しい頭痛が頻回に起こります。そのため、発作の頻度が比較的多い時期は、ベラパミル内服で発作予防をしながら、頭痛発作が起こったときはすぐに発作を消失させる急性治療を行います。
ベラパミルは、予防効果が出るまで数日~1週間程度かかるといわれております。効果が出るまでの期間は、ベラパミルと併用してステロイド薬の投与が行われることもあります。
発作予防の薬は、群発頭痛が起こる頻度や期間などに応じて個々で異なりますので、医療機関で適切な診察を受けましょう。
関連記事:片頭痛(偏頭痛)持ちの人特徴|原因や症状についての対処法
救急受診を考えるべき頭痛

頭痛の中には、群発頭痛と同じような症状が起こる頭痛も存在し、中には救急の対応が必要となる頭痛もあります。
くも膜下出血
くも膜下出血は、「突然起こった今までに経験したことのない強い頭痛」で発症します。
適切な診断や治療が行われた場合であっても、死亡率は、半年以内に約50%と非常に重篤な病気です。
突然の激しい頭痛とともに意識障害や後頚部の痛み、めまいや吐き気などの症状を伴う場合は、くも膜下出血の可能性があるため、救急車を呼びましょう。
脳出血
くも膜下出血以外の脳出血では、約50%に頭痛が起こると言われています。
脳出血では、頭痛の他にも、「どちらか片方の手足に力が入らない」、「しゃべりにくい」といった症状を伴うことが大半です。
脳出血を起こす場所によっては、めまいや吐き気、意識障害などの症状が起こる場合もあります。このような病状があるときは、すぐに救急車を呼びましょう。
髄膜炎
髄膜炎は、脳を包む髄膜に病原体が感染し炎症を起こす病気です。髄膜炎は、クモ膜下出血や脳出血と比べて、発症の仕方は急ではありません。
しかし、早期に頭痛を発症し、頭痛が起こる頻度も高いです。頭痛の他には、発熱、首の後ろの痛み、意識障害などを伴うこともあります。
できるだけ早くに抗生剤やステロイドなどでの治療を行うことで、後遺症や敗血症が起こる可能性を下げる必要があります。
風邪などでも発熱と頭痛を起こすことはあり、診断のために総合病院で髄液の検査が必要となる場合もあります。
また、蓄膿(副鼻腔炎)や免疫力が低下している状態の方は、髄膜炎を発症するリスクが比較的高いと言われています。
強い頭痛に加えて発熱がある場合には、いつもの風邪だと思わずに、医療機関の受診をしましょう。
急性緑内障発作
急性緑内障発作は、眼圧(目の中の圧力)が異常に上昇して、目の痛みや充血、視力障害が起こる病気です。
片目にこのような症状が短時間の間に起こり、群発頭痛と症状は似ているため、正確な診断が必要となります。
「突然目が見えなくなる」こともあり、症状の程度が激しいため、発症したときには救急車を呼ぶ場合も多いです。
眼科での特殊な検査が必要となるため、救急病院を受診しましょう。
群発頭痛の対処法や治療について

群発頭痛の発作は、定期的に起こるほか、アルコール、ニトログリセリン、ヒスタミンにより誘発されることもあります。
中でもアルコールは、群発頭痛の発作に特徴的な原因の一つで、ご自身でも自覚のある方が多いです。
群発期以外は飲酒をしても問題はありませんが、群発期における飲酒は避けた方がよいでしょう。また、喫煙も誘発要因のひとつです。そのため、群発頭痛の発作は、大酒家、ヘビースモーカーに多い傾向にあります。
ニトログリセリンは主に狭心症の方に使用される治療薬です。
血管を拡張させる効果が強いため、群発頭痛を引き起こすことがあり、狭心症や心筋梗塞の方は、注意が必要になります。
群発頭痛は、比較的発作の起こる時期が予想しやすい頭痛のため、対処法として最も大事なことは、事前に頭痛の発症を予防することです。
アルコール、喫煙、ニトログリセリン、ヒスタミンなどの物質、薬剤はできるだけ控えるとともに、ベラパミルを内服することで発症を予防しましょう。
家庭でできる対処方法

ここでは前述の「発作時の治療」について、ご家庭で対処可能な方法を詳しく説明していきます。
まず、発作が起こると、市販の鎮痛薬で痛みを抑えることは困難です。発作時の対処法のひとつとして、トリプタン製剤の皮下注射があります。
糖尿病の人がインスリンの注射キットを用いて自分で注射をするのと同様で、トリプタン製剤の注射キットがあります。
トリプタン製剤の内服薬もありますが、効果があらわれるまでに時間を要するため、群発頭痛発作時には即効性のある皮下注射を使用します。
通常は注射をしてから10分間ほどで痛みが軽減し始め、15分間以内には痛みはほとんど無くなります。
トリプタン製剤の皮下注射は、自己注射を用いることで、医療機関外でも容易に行うことができ、保険適用内になります。
トリプタン製剤は、三叉神経の興奮を抑えて痛みを鎮める効果があるとされている一方で、血管収縮作用があるので、虚血性心疾患、心筋梗塞、脳血管障害、一過性脳虚血性発作などの病気を抱える方には使用できません。
また、副作用として、悪心や胸部不快感、動悸などが起こることもあります。
トリプタン製剤投与以外の群発頭痛発作の対処法は、酸素吸入です。
口と鼻を密閉したマスクで覆い、純酸素を15分間ほど吸入します。
酸素吸入はトリプタン製剤の皮下注射同様に、高い効果が期待されています。
また、2018年に在宅酸素療法の保険適応が認められたことにより、トリプタン使用禁忌の方や副作用などにより十分な治療を受けられなかった方に対して、酸素吸入は手のつけやすい治療のひとつになりました。
在宅酸素療法の酸素供給装置にも種類があり、個々の日常生活のニーズにあった方法で選択・使用することが可能です。
病院でできる治療

発作が起きてしまった後の治療は、トリプタン製剤の投与や酸素投与が必要になるため、救急病院や頭痛専門外来への受診を検討しましょう。
また、いつもと異なる痛みや経験したことのないような痛みの場合は、群発頭痛ではない二次性頭痛である可能性があります。
二次性頭痛の場合、病院でCT検査などを行い、確実な診断をつけて治療することが大切です。
二次性頭痛では、少しの診断や治療の遅れが命取りになる病気の可能性もあるため、救急車を呼ぶことを検討してください。
まとめ
群発頭痛は、20~40歳の比較的若い年齢層に多い病気で、男性に多く発症します。
一時性頭痛の中では、緊張型頭痛や片頭痛と比較して頻度が少ないです。
しかし、発作が出現した場合は、痛みは「片目がえぐられるような痛み」とも言われるくらい激しいものであり、日常生活に支障をきたす頭痛であることには間違いありません。
発作時の治療には、トリプタン製剤の投与や酸素投与が有効です。
多くの場合、発作が起こったとしても入院をする必要はありません。
群発頭痛は、比較的発作の起こる時期が予想しやすい頭痛のため、対処法として最も大事なことは、事前に頭痛の発症を予防することです。
アルコール、喫煙、ニトログリセリン、ヒスタミンなどの物質、薬剤はできるだけ控えるとともに、ベラパミルを内服することで発症を予防します。
最後に、頭痛にもさまざまな原因があり、いつも起こっている頭痛だからなど安易に考えるのは危険だということをもう一度お伝えしておきます。
いつもと様子が異なる頭痛、頻度や程度が増していく頭痛や、発熱や手足の麻痺やしびれを伴う場合は、群発頭痛ではない他の病気が隠れている可能性もあります。
すぐに医療機関を受診しましょう。
参考文献
日本頭痛学会: 慢性頭痛診療ガイドライン, 2013: 216-238
日本救急医学会: 救急診療指針改訂第5版, 2018; 7: 279
大人のウイルス性・細菌性の胃腸炎の原因や症状、改善方法|嘔吐や下痢の原因?

嘔吐や下痢はありふれた病気です。
しかし、症状がとても重かったり、長く続いたりする場合は大人でも不安になりますよね。
それが小さなお子さんや体力が無い高齢者である場合はなおさらです。
消化器官が悪いのか、食べている食品が悪いのか…
原因がわからないこともたくさんあります。
そこで、今回はよくある嘔吐や下痢の原因となる感染性胃腸炎について医師がくわしく解説します。
感染性胃腸炎とは?

感染性胃腸炎とは、主にウイルスや細菌などの微生物が胃腸に感染しておこります。
夏は気温が高いため細菌性が流行しやすく、冬は乾燥するためウイルス性が流行します。
感染症胃腸炎の原因となるウイルスや細菌には以下のようなものがあります。
ウイルス性の胃腸炎

出典:感染性胃腸炎患者からの原因ウイルス検出状況(平成19年度)
ノロウイルス
ノロウイルスとは、ウイルス性の感染症の1つで主に冬場に多発します。
乳幼児から高齢者までの幅広い年齢層に急性胃腸炎を引き起こします。
長期免疫が成立しないため何度もかかります。
ロタウイルス
ロタウイルスとは、2〜3月にかけて最も多く発生します。
乳幼児をはじめ子どもに多い急性胃腸炎を引き起こします。
他のウイルス性胃腸炎に比べ、下痢や嘔吐の症状が激しいことが多くあります。
入院が必要な小児急性胃腸炎の原因のうち約50%を占めるとされています。
アデノウイルス
アデノウイルスとは、以下などに感染症を起こすウイルス性の感染症の1つで主に夏場に多発します。
・目
・腸
・呼吸器
・泌尿器
51の型に分類され、病気と関係が深いのは1~8型です。
その中でも主に3型によるものは咽頭炎と結膜炎をおこすタイプでプール熱と呼ばれているものです。
多くの型があるため、免疫がつきにくく、何回もかかることがあります。
サポウイルス
サポウイルスは、年間を通して胃腸炎を起こします。
ノロウイルスと同じカリシウイルス科に属するウイルス性感染症です。
乳児から成人まで幅広く感染します。
ノロウイルスより比較的軽症で治療を必要とせずに軽快することも多いです。
関連記事:ウイルス性胃腸炎の症状で下痢のみが起きる理由|何日で治る?
細菌性の胃腸炎(食中毒)
カンピロバクター
カンピロバクターとは、鶏・豚・牛の腸内に生息している細菌です。
鶏肉や井戸水、犬・猫などのペットの糞便にもあるため、注意が必要です。
潜伏期間は1~7日です。
サルモネラ菌
サルモネラは、人や牛・豚・にわとりなどの家畜の腸内、河川・下水など自然界に広く生息する細菌です。
保菌しているネズミ・ハエ・ゴキブリや、犬・猫・カメなどのペットからも感染することがあります。
潜伏期間は6~72時間です。
腸管出血性大腸菌(O157)
腸管出血性大腸菌O157とは、毒力の強いベロ毒素を産生する大腸菌の一種です。
激しい腹痛と水溶性の下痢、血便がみられます。
抵抗力の弱い乳幼児や小児、高齢者が感染すると、神経学的障害や腎機能などの後遺症を残す可能性があります。
食中毒が多発する初夏から初秋にかけて特に注意が必要です。
動物の腸内に生息しており、汚染された食肉やその加工品を食すことで感染します。
感染者の便で汚染された手指で取り扱う食品などを介して二次感染を起こす場合もあります。
十分な加熱調理、手洗い・消毒を徹底することで二次感染を予防することもできます。
潜伏期間は3~8日程度です。
ウェルシュ菌
ウェルシュ菌とは、土や水の中、人や動物の腸内など自然界に幅広く生息している細菌です。
特に牛・鶏・魚が保菌していることが多く、汚染された肉類や魚介類を使った「煮込み料理」には注意が必要です。
酸素(空気)がないところでも増殖し、潜伏期間は6~18時間です。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌とは、人や動物の化膿してる傷口をはじめ、手指・鼻・のど・耳・皮ふなどに広く生息している細菌です。
健康な人の20〜30%が保菌していると言われています。
おにぎりやサンドイッチなど手作り食品には要注意です。
潜伏期間は30分~6時間です。
腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオとは、海水や海産の魚介類やその加工品などに生息している細菌です。
増殖速度がきわめて速く、主に夏季に短時間で急激に増殖します。
調理する過程で手をはじめ、まな板・包丁を介して二次汚染された食品からも感染します。
潜伏期間は8~24時間です。
ウイルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎の症状

ウイルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎の主な症状は以下などです。
- 腹痛
- 嘔吐
- 下痢
- 発熱
- 悪心
病原菌によっては血便が出ることもあります。
重傷の場合は脱水症状を引き起こします。
原因の病原体により異なりますが、潜伏期間は1~3日程度です。
通常3日程度で症状は回復します。
関連記事:急性腸炎ってなに?ストレスが関係する?原因や症状について
ウイルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎の治療方法は?

多くはウイルス性のため、特別な治療法は無く、症状に応じた対症療法が行われます。
具体的には、嘔吐や下痢がおさまるまでは、飲食を避けて安静にし、様子をみます。
症状がおさまってきたら少量の水分から摂取を開始します。
経口補水液(市販のOS-1など)が望ましいです。
吐き気止めや下痢止めは基本的には使用しません。
なぜならウイルスや細菌が体内から排出されるのを妨げ、逆に症状回復が遅くなる可能性があるからです。
小さなお子さんや高齢者では、脱水症状を起こすことがあります。
症状が重い場合は早めに医療機関を受診することが大切です。
ウィルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎はどこからうつるの?

感染性胃腸炎の感染経路はほとんどが経口感染です。
つまり、原因の細菌やウイルスを口から取り込んでしまい、感染します。
患者さんの糞便や嘔吐物には大量の病原体が含まれています。
適切な処理を行わなければ、人の手を介して二次感染したり、風に乗って舞い上がり飛沫感染をおこします。
特に学校や保育園、家庭などでは、こうした二次感染で広がってしまうことが多いです。
ウイルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎の予防法

ウイルス性・細菌性胃腸炎の予防|手洗い

どのウイルスや細菌が原因でも、最も重要なのは手洗いです。
石けんを使って十分な量の流水で洗うのが効果的です。
手についたウイルスが口に入る前に手洗いを行うイメージで以下の際などに行いましょう。
- 食事の前後
- 帰宅後
- 調理の際
なお、最近は新型コロナウイルス感染症対策として、いたるところにアルコール手指消毒剤が置かれています。
しかし、感染性胃腸炎の大きな原因であるノロウイルスでは、アルコール消毒は無効です。
どのような病原体が原因でも、手洗いは効果を発揮します。
アルコール消毒を過信せずにまずは手洗いを徹底してください。
ウイルス性・細菌性胃腸炎の予防|嘔吐物、糞便の処理

嘔吐物や下痢便の処理を行うときは、二次感染の危険が高まるため注意が必要です。
直接、汚染物が肌に付着しないようにしましょう。
使い捨ての手袋、エプロン、マスクを付けて処理を行うことが大切です。
また、嘔吐物や下痢便が乾く前に速やかに拭き取ります。
このとき、ペーパータオルなど使い捨てのものを使うことをおすすめします。
拭き取った汚物や使用した手袋などはビニール袋など密閉できる袋にいれ、しっかりと口を閉めて処分します。
部屋の換気も忘れずに。
拭き取ったあとは、家庭用の塩素系漂白剤やアルコールなどを希釈したもので再度拭き上げ、消毒します。
ウイルス性・細菌性胃腸炎の予防|食材の加熱や消毒

食品の加熱が不十分であったり、調理後時間が経ってしまった食べ物が原因で感染性胃腸炎になる場合もあります。
加熱用の食材はしっかりと火を通してから食べましょう。
調理前にしっかりと手を洗うこと、包丁やまな板などの洗浄や消毒をするなどの対策も必要です。
また、以下も感染の原因になりますので避けるようにしましょう。
- 症状がでてしまった家族と同じ皿から食事する
- タオルなど洗面用具の共用
ウイルス性・細菌性による胃腸炎の受診の基準と脱水症状の見分け方

基本的には対症療法で症状がおさまるまで様子をみることが治療となります。
しかし、以下のような場合は、病院の受診をご検討ください。
- 激しい嘔吐が続き、水分を自力でとることもできない(特に子ども・高齢者)
- 吐いたものに血や緑色の吐物が混じる
- 下痢に血便や黒色便がみられる
- 強い腹痛・頭痛、しびれ、ふらつきなどがある
- 意識がもうろうとしている
- 表情がうつろ けいれんがみられた
治った判断が難しいウイルス性・細菌性胃腸炎の回復のサインとは?

一般的なウイルス性胃腸炎の場合では、最初の症状は強いものの1~3日程度で自然に軽快傾向になります。
1週間程度で多くは改善します。
しかし、一部の細菌性腸炎は抗生剤投与を必要とすることがあります。
病状としては回復した後もウイルスは糞便中に含まれていることがあります。
特に注意を要するノロウイルスの場合、最長で1か月間は残存していることがあります。
症状が改善したからといって油断せず、感染拡大防止のためにしばらくは消毒をするなどを継続しましょう。
まとめ~大人のウイルス性・細菌性胃腸炎の症状を改善する方法~
感染性胃腸炎は、原因病原体が多数存在します。
そのため、一年を通じて流行します。
感染力が強く、ほとんどが経口感染です。
家庭内や学校など、身近な人からうつることが多いです。
原因や感染経路を知り、正しく予防して感染の拡大を防ぎましょう。
参考文献